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・・・・・・・・・・・・・ 発見 ・・・・・・・・・・・・・・ 「妻の意見」
喉が渇かない? 冷蔵庫にお茶があるけど、、、
私は缶入りのお茶を湯飲みに注いで、その一つを涼子に手渡した。
彼女の手にはまだ白い包帯が巻かれている。
話し混んでいて、忘れていたけれど、、、彼女とヒロは昨日、あわや焼死するかもしれなかったのだ。
不倫の果てに巻き込まれた「火事」
白い包帯は事の重大さを物語っている。 ヒロはまだ集中治療室を出ることさえ出来ない。
どうしているのかしら?
昨日見た、、、ミイラのようなヒロの姿が脳裏をよぎる。
「彼が私と別れたくなかったのは、、、やっぱりハルカの存在。 少なくとも当時はそう思っていた。
なんだかんだ言っても、彼はハルカを可愛がっていたし、、、
ハルカもパパの事が大好きだった。ハルカと別れるのは辛い、そう言っていたわ」
「それだけが理由かしら、、、
いくら気持ちが無くなったとは言え、愛人がいる元妻と一緒に暮らせるものなの?」
「愛人、、、その言い方は重いなぁ。 やっぱりボーイフレンドよ。
一緒にご飯食べたり、ドライブ行ったり、、、もっとライトな関係なのよ」
「ライトな関係!? 今回のヒロとの事を見る限り、ライトとは言えないわよ。
充分に重い関係だと思うけど、、、」
集中治療室で火傷と戦っているヒロの事や小さい胸を痛めているハルカちゃんの事を思うと、
「ライトな関係!」などと軽口を叩く 涼子に腹が立った。
私の尖った物言いに、涼子もヒロの存在を思い出したのか、表情をゆがめて神妙な顔になった。
涼子は間を取るように、湯飲みに口を付けてお茶を飲んだ。
「結局、、、私が用意した離婚届は夫が『しばらく預かっておく』という事になった。
私とすれば、その時点ではまだ仕事も不安定だったし、収入もたいしてなかったでしょ。
渡りに船、、、ヘンなたとえかもしれなけど、彼の提案は悪い話しじゃなかったのよ。
それに、ハルカだって両親が別居という事になれば少なからずショックを受けるだろうし、、、」
女が生活の為に、離婚を躊躇うのは理解できる。
男女雇用機会均等法などといいうやたらに重々しい法律は出来たが、
実際に女が一人で小さい子供を抱えて仕事をするのは大変だ。
あの状態で、涼子が安定した収入があるまで別居(離婚)を保留にしたのは
ある意味で賢明な選択だと、、、私は思った。
もし健一郎さんが完全に離婚を望んでいたのなら、この時点で2人の結婚生活は終わっていたはずで、
彼の真意は理解できないが、少なくとも、離婚よりも家庭内別居を彼は望んでいたのだ。
涼子の言うように、ハルカちゃんの存在だけが彼をそうさせたのだろうか?
「それからの2人の関係は? 完全に冷戦状態だったの?」
言葉も交わさない同居人との生活、、、当然だが、暖かい家庭のイメージは無い。
「それが、、、そうでもなかったのよ。
私の中ではさほど変化があったわけじゃないけど、、、彼は変わった。
『どう変わったの?』って聞かれても答えには困るんだけど、
威圧感がなくなった、っていうのかなぁ。 ピリピリした緊張感からは解放された気分だった」
完全に割り切ってしまったという事か?
「優しくなった、、、なんて言ったら笑われそうだけど、本当なのよ。
食事の支度をしていると隣にたって、『なにか、、、手伝おうか?』とか、、、
遅く家に帰ったら、洗濯物がたたんであったりとか、、、 休日にお風呂掃除をしてくれたりとか、、、
まるで新婚の頃のように、優しくて、、、なんだか気味が悪かった。」
そうした健一郎さんの行動は私にも意味不明だった。
長年の対立、行き違い、、、そして浮気の発覚、、、そのすべてを許して受け入れたのだろうか?
「どういう心境の変化?」
「でしょ? それにね、、、もっとヘンなのは、そう言う状態になってからしばらくして、、、
彼が私を求めてきたのよ。 」
「え!?求めてきたって?」
「だから、、セックス。 寝室は別々だったんだけど、、、
何度か夜這いをかけられたわ。 はじめは『ふざけないで!』って拒絶してたんだけどね。
結局、何年かぶりで彼に抱かれたのは、、、その頃だったわ」
「じゃぁ、、、もとに戻る兆候はあったって事?」
涼子はゆっくりと首を左右に振った。
「元に戻った訳じゃないわね。
夫がどう思っていたかは分からないけれど、
その時、私の心の中では結婚生活にある程度の方向性が出ていた。
私が爆発しちゃった夜、、、その後の話し合い、、、そして自分で出した『離婚』とうい答え。
そのプロセスの中で私の心は完全にこの結婚生活から離れていた。
夫の事が憎くて憎くて仕方ない!っていう事じゃないの。 嫌いでもない、、、
でも、夫婦には戻れない。後戻りできない所まで来ちゃったのよね。」
「ふ~~っ」
私はため息をついた。
もう終わっている、、、前の日に涼子が言っていた言葉。
彼女の中では、もう随分前に、、、私がヒロを紹介するもっと前に、夫婦生活は終わっていたのだ。
「夫婦には戻れない、、、か、、、」
「そう、、、戻れない。 今だって、夫の事を好きか嫌いか?って聞かれたら、好きって答えると思う。
嫌いじゃないもの。 でも、夫婦には戻れない。」
「でもさ、、、今だって、共同生活をしているんでしょ?
お互いに納得して、ルールまで作って一つ屋根の下で暮らしているんでしょ?
それってほとんど夫婦と同じじゃない?
夫婦関係だってお互いに合意のルールの上になりっている訳だし、、、」
涼子を離婚しないよう説得するつもりじゃなかったが、
この夫婦にはまだまだ修復の余地があるような気がした。
しかし、涼子は私の話しを遮るように、、、それまでよりやや強い口調で
「駄目なのよ!」
と言って、私を見た。
その予想外の言葉の強さに思わず口をつぐんでしまった。
「駄目なのよ、、、ラン、、、もうあの人とは元に戻れないのよ。
夫は給料はちゃんと入れてくれる。以前のように大声を出して怒る事もなくなった、、、
で、私は好きな仕事をさせてもらって、家事も適当、友達との遊びも自由、、、
それどころか、ボーイフレンドだって、言ってみれば『公認』
あなたに言われるまでもなく、随分と身勝手な妻だとは思うわ。
夫がそのままで良い、って言ってくれているのだから、こんなにお気楽な立場はないかもしれないわね。
一時期は、ハルカの事も考えてこのままで良いかなぁって思ったこともあった」
公認・・・
私にしゅう、公認のボーイフレンドが出来たとき、同じような立場の女性がいるとは思えなかった。
レアケース、、、 あり得ない話しよね、、、
そう思っていたのに、こんなに身近に、内容には違いはあるが「夫公認」で愛人がいる女性がいた。
しかも、その女性は親友だった。
「でも、その頃私には異性の友人が何人かいた。中には、、、不倫関係にあった人もいたわ。
それまで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、男性と遊んだ。
はじめは当て付け的な部分もあったけど、、、
既婚者同士だからこそ話せる本音トークはそれまで知らなかった男性の本音を聞くことができて楽しかった。
彼等の意見は、目から鱗!?の連続。 新しい発見だったのよ。」
それは同感だった。
セックスありきではじまった男女間だから、ヘンな見栄や嘘がない。
仮に、意見が食い違ってしまったら「終わり」にすれば良いだけの話しだから、遠慮もいらない。
しゅう以外の男性と本音で話しが出来たのも、色々な男性のセックス観を教えてもらったのも、
「公認交際」のおかげだと思っている。
「付き合っていた男性と比較する訳じゃないの。
彼等は都合の良いことしか言わないし、結婚生活となれば話しは別だっていう事も分かってる。
でも、結婚してから長い間、外部との接触がなくて
結婚生活って、、、女の生き方って、、、こういうモンなんだろうなぁ、、、って思っていたことが
実は勝手に思いこんでいた事だったり、押し付けられた既成概念だったりしたことが見えてきたのね。
そんな中で、私は私なりに考えたのよ。 これからどうしようか?って、、、
←続きは?と思ったらこちらもクリック♪ お願いします そうすると、、、今は良いと思うんだ。 夫だって若いし、仕事もあるし、元気だし、、、
お互いに自分の人生のことだけを考えていいのなら楽だしね。
でも、これから歳をとっていって、
嫌いじゃないけど愛することの出来ない人と一緒に暮らすのは無理だと思うようになった。
彼のご飯を作ることは出来ても、それ以上の、、、、例えば下の世話をするのは無理。
それは相手にも言えることでしょ? 私が病気になったときに、彼に看病してもらうのは嫌だもの。」
昔からどこかのんびりしていて、将来の不安などみじんも感じさせない子だったのに、、、
やっぱり年齢と共に考え方も変わるものだ。
「ヒロちゃんと付き合いはじめてからは、とくにそう言う思いが強くなっていた。
彼にとっては単なる不倫相手、、、あ、、、彼は独身だったんだっけね。
そう言う場合、、、不倫相手になるのかしら?」
「アンタは既婚者なんだから不倫でしょ?」
「そうよね。 ゴメン、、、話しがそれちゃったけど、、、
彼が私との事をどう思っていたかは分からないけど、少なくとも私にとって
ヒロちゃんとの交際はとっても新鮮で、楽しかった。
彼の優しさや気遣いがとても心地よくて、
一緒に年を重ねるのならこういう人がいいんだろうなぁ、、、て思った
だから、去年くらいからは やっぱり離婚しなくちゃ駄目だな、、、
いつまでもダラダラ一緒に暮らしているのは
夫にとっても、私にとっても、マイナスだなぁって思い始めていたの。
今回の出来事は、ヒロちゃんにも夫にも、、、ハルカにも、、、みんなに謝らなくちゃいけない。
でも、、、言葉は悪かもしれないけど、いいきっかけになったと思っている。
ヒロちゃんが退院して、少し落ち着いたら、やっぱり、、、、離婚するわ」
彼女の口調から察するに、、、私が異論を唱える余地は無かった。
窓の外は相変わらず雲一つ無い晴天で、、、それは今の涼子の気持ちを表しているかのようだった。