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・・・・・・・・・・・・・ 発見 ・・・・・・・・・・・・・・  「妻の意見」
 
 
 
喉が渇かない? 冷蔵庫にお茶があるけど、、、 
 
 
私は缶入りのお茶を湯飲みに注いで、その一つを涼子に手渡した。
彼女の手にはまだ白い包帯が巻かれている。 
 
話し混んでいて、忘れていたけれど、、、彼女とヒロは昨日、あわや焼死するかもしれなかったのだ。
不倫の果てに巻き込まれた「火事」
白い包帯は事の重大さを物語っている。 ヒロはまだ集中治療室を出ることさえ出来ない。
どうしているのかしら? 
    
昨日見た、、、ミイラのようなヒロの姿が脳裏をよぎる。   
  
 
「彼が私と別れたくなかったのは、、、やっぱりハルカの存在。 少なくとも当時はそう思っていた。
   なんだかんだ言っても、彼はハルカを可愛がっていたし、、、
     
      ハルカもパパの事が大好きだった。ハルカと別れるのは辛い、そう言っていたわ」   
   
「それだけが理由かしら、、、 
   
       いくら気持ちが無くなったとは言え、愛人がいる元妻と一緒に暮らせるものなの?」 
     
「愛人、、、その言い方は重いなぁ。 やっぱりボーイフレンドよ。
  
   一緒にご飯食べたり、ドライブ行ったり、、、もっとライトな関係なのよ」   
   
「ライトな関係!? 今回のヒロとの事を見る限り、ライトとは言えないわよ。
                               充分に重い関係だと思うけど、、、」  
 
 
 
集中治療室で火傷と戦っているヒロの事や小さい胸を痛めているハルカちゃんの事を思うと、
「ライトな関係!」などと軽口を叩く 涼子に腹が立った。 
   
私の尖った物言いに、涼子もヒロの存在を思い出したのか、表情をゆがめて神妙な顔になった。
涼子は間を取るように、湯飲みに口を付けてお茶を飲んだ。 
   
「結局、、、私が用意した離婚届は夫が『しばらく預かっておく』という事になった。
   私とすれば、その時点ではまだ仕事も不安定だったし、収入もたいしてなかったでしょ。
     渡りに船、、、ヘンなたとえかもしれなけど、彼の提案は悪い話しじゃなかったのよ。
       それに、ハルカだって両親が別居という事になれば少なからずショックを受けるだろうし、、、」 
 
 
 
女が生活の為に、離婚を躊躇うのは理解できる。
男女雇用機会均等法などといいうやたらに重々しい法律は出来たが、
   
実際に女が一人で小さい子供を抱えて仕事をするのは大変だ。
あの状態で、涼子が安定した収入があるまで別居(離婚)を保留にしたのは 
    
ある意味で賢明な選択だと、、、私は思った。 
 
 
もし健一郎さんが完全に離婚を望んでいたのなら、この時点で2人の結婚生活は終わっていたはずで、
彼の真意は理解できないが、少なくとも、離婚よりも家庭内別居を彼は望んでいたのだ。
涼子の言うように、ハルカちゃんの存在だけが彼をそうさせたのだろうか? 
 
 
「それからの2人の関係は? 完全に冷戦状態だったの?」
言葉も交わさない同居人との生活、、、当然だが、暖かい家庭のイメージは無い。 
   
「それが、、、そうでもなかったのよ。
   私の中ではさほど変化があったわけじゃないけど、、、彼は変わった。
       『どう変わったの?』って聞かれても答えには困るんだけど、
    威圧感がなくなった、っていうのかなぁ。 ピリピリした緊張感からは解放された気分だった」  
   
完全に割り切ってしまったという事か?  
 
「優しくなった、、、なんて言ったら笑われそうだけど、本当なのよ。
   食事の支度をしていると隣にたって、『なにか、、、手伝おうか?』とか、、、
  
      遅く家に帰ったら、洗濯物がたたんであったりとか、、、 休日にお風呂掃除をしてくれたりとか、、、
    まるで新婚の頃のように、優しくて、、、なんだか気味が悪かった。」 
      
そうした健一郎さんの行動は私にも意味不明だった。
長年の対立、行き違い、、、そして浮気の発覚、、、そのすべてを許して受け入れたのだろうか?   
  
  
「どういう心境の変化?」
「でしょ? それにね、、、もっとヘンなのは、そう言う状態になってからしばらくして、、、
 
                                        彼が私を求めてきたのよ。 」
「え!?求めてきたって?」
「だから、、セックス。 寝室は別々だったんだけど、、、
    何度か夜這いをかけられたわ。 はじめは『ふざけないで!』って拒絶してたんだけどね。
        結局、何年かぶりで彼に抱かれたのは、、、その頃だったわ」
「じゃぁ、、、もとに戻る兆候はあったって事?」 
    
涼子はゆっくりと首を左右に振った。   
   
「元に戻った訳じゃないわね。 
   夫がどう思っていたかは分からないけれど、
   
      その時、私の心の中では結婚生活にある程度の方向性が出ていた。
  私が爆発しちゃった夜、、、その後の話し合い、、、そして自分で出した『離婚』とうい答え。
そのプロセスの中で私の心は完全にこの結婚生活から離れていた。
   夫の事が憎くて憎くて仕方ない!っていう事じゃないの。 嫌いでもない、、、
   でも、夫婦には戻れない。後戻りできない所まで来ちゃったのよね。」
「ふ~~っ」
私はため息をついた。 
  
    
もう終わっている、、、前の日に涼子が言っていた言葉。   
   
彼女の中では、もう随分前に、、、私がヒロを紹介するもっと前に、夫婦生活は終わっていたのだ。  
      
「夫婦には戻れない、、、か、、、」
「そう、、、戻れない。 今だって、夫の事を好きか嫌いか?って聞かれたら、好きって答えると思う。
    嫌いじゃないもの。 でも、夫婦には戻れない。」
「でもさ、、、今だって、共同生活をしているんでしょ? 
   お互いに納得して、ルールまで作って一つ屋根の下で暮らしているんでしょ?
  それってほとんど夫婦と同じじゃない? 
       夫婦関係だってお互いに合意のルールの上になりっている訳だし、、、」  
  
   
涼子を離婚しないよう説得するつもりじゃなかったが、 
   
この夫婦にはまだまだ修復の余地があるような気がした。
しかし、涼子は私の話しを遮るように、、、それまでよりやや強い口調で 
   
「駄目なのよ!」
と言って、私を見た。
その予想外の言葉の強さに思わず口をつぐんでしまった。 
     
「駄目なのよ、、、ラン、、、もうあの人とは元に戻れないのよ。
     夫は給料はちゃんと入れてくれる。以前のように大声を出して怒る事もなくなった、、、
   で、私は好きな仕事をさせてもらって、家事も適当、友達との遊びも自由、、、
    
                   それどころか、ボーイフレンドだって、言ってみれば『公認』 
 あなたに言われるまでもなく、随分と身勝手な妻だとは思うわ。
    夫がそのままで良い、って言ってくれているのだから、こんなにお気楽な立場はないかもしれないわね。
  一時期は、ハルカの事も考えてこのままで良いかなぁって思ったこともあった」 
 
 
公認・・・ 
 
 
私にしゅう、公認のボーイフレンドが出来たとき、同じような立場の女性がいるとは思えなかった。
レアケース、、、 あり得ない話しよね、、、
そう思っていたのに、こんなに身近に、内容には違いはあるが「夫公認」で愛人がいる女性がいた。
しかも、その女性は親友だった。 
      
「でも、その頃私には異性の友人が何人かいた。中には、、、不倫関係にあった人もいたわ。
    それまで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、男性と遊んだ。
       はじめは当て付け的な部分もあったけど、、、
既婚者同士だからこそ話せる本音トークはそれまで知らなかった男性の本音を聞くことができて楽しかった。
   
      彼等の意見は、目から鱗!?の連続。 新しい発見だったのよ。」
 
 
 
それは同感だった。
セックスありきではじまった男女間だから、ヘンな見栄や嘘がない。
仮に、意見が食い違ってしまったら「終わり」にすれば良いだけの話しだから、遠慮もいらない。
しゅう以外の男性と本音で話しが出来たのも、色々な男性のセックス観を教えてもらったのも、
「公認交際」のおかげだと思っている。 
 
    
「付き合っていた男性と比較する訳じゃないの。
   
   彼等は都合の良いことしか言わないし、結婚生活となれば話しは別だっていう事も分かってる。
 でも、結婚してから長い間、外部との接触がなくて
   結婚生活って、、、女の生き方って、、、こういうモンなんだろうなぁ、、、って思っていたことが
    実は勝手に思いこんでいた事だったり、押し付けられた既成概念だったりしたことが見えてきたのね。
       
そんな中で、私は私なりに考えたのよ。 これからどうしようか?って、、、
        そうすると、、、今は良いと思うんだ。 夫だって若いし、仕事もあるし、元気だし、、、
                      お互いに自分の人生のことだけを考えていいのなら楽だしね。
  
  でも、これから歳をとっていって、
     嫌いじゃないけど愛することの出来ない人と一緒に暮らすのは無理だと思うようになった。
        彼のご飯を作ることは出来ても、それ以上の、、、、例えば下の世話をするのは無理。
   それは相手にも言えることでしょ? 私が病気になったときに、彼に看病してもらうのは嫌だもの。」 
 
 
昔からどこかのんびりしていて、将来の不安などみじんも感じさせない子だったのに、、、
やっぱり年齢と共に考え方も変わるものだ。  
 
 
「ヒロちゃんと付き合いはじめてからは、とくにそう言う思いが強くなっていた。
    彼にとっては単なる不倫相手、、、あ、、、彼は独身だったんだっけね。
        そう言う場合、、、不倫相手になるのかしら?」
「アンタは既婚者なんだから不倫でしょ?」
「そうよね。 ゴメン、、、話しがそれちゃったけど、、、
     彼が私との事をどう思っていたかは分からないけど、少なくとも私にとって
       ヒロちゃんとの交際はとっても新鮮で、楽しかった。
    彼の優しさや気遣いがとても心地よくて、 
  
        一緒に年を重ねるのならこういう人がいいんだろうなぁ、、、て思った
    だから、去年くらいからは やっぱり離婚しなくちゃ駄目だな、、、 
   
 いつまでもダラダラ一緒に暮らしているのは
     夫にとっても、私にとっても、マイナスだなぁって思い始めていたの。
    今回の出来事は、ヒロちゃんにも夫にも、、、ハルカにも、、、みんなに謝らなくちゃいけない。
           でも、、、言葉は悪かもしれないけど、いいきっかけになったと思っている。
                      ヒロちゃんが退院して、少し落ち着いたら、やっぱり、、、、離婚するわ」
 
   
 
彼女の口調から察するに、、、私が異論を唱える余地は無かった。 
 
 
窓の外は相変わらず雲一つ無い晴天で、、、それは今の涼子の気持ちを表しているかのようだった。 
 
 
    
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・・・・・・・・・・・・・・・  危機  ・・・・・・・・・・・・・  「妻の変化」 
 
 
涼子と健一郎さん。
少なくとも、夫婦仲が悪いようには見えなかったし、そんなそぶりも見せなかった。
でも、それまで彼女の口から出た言葉を聞く限り、、、結婚後数年で2人のすれ違いははじまっている。
今、彼等をつなぎ止めているのは、「ハルカちゃん」
子はかすがい。と言うけれど、これから先この夫婦が以前のような仲の良い関係になれるのだろうか?
涼子と健一郎さん、双方とも、ハルカちゃんが生まれて数年後からは
少なくとも、私の定義で言うところの「夫婦」ではなくなっていた。
会話も無い、触れあいも無い、いたわりも無い、、、もちろんセックスも無い、
単なる同居人!?
そんな生活に私は耐えられない、、、そう思った。
「ねぇ、、どうして、離婚しなかったの? ハルカちゃんの為? 世間体?
   それとも、どちらかに未練があった?
      だって、、私には考えられない、そんな虚無の生活なんてとても耐えられない、、、」
病院の中は静かだ。廊下を行き来する人の気配は感じるが、2人の会話を邪魔するものはない。
涼子は相変わらず窓の外を眺めながら、穏やかな口調で話しを続ける。
「どうしてかなぁ、、、 ハルカの存在が一番大きかったのは事実ね。
    ハルカを保育園に預けて働くようになった時は、離婚を考えた。
       贅沢な生活は出来ないけれど、ハルカと2人でやっていくことは出来ると思ったし、、、
  ランが言うように、冷たくて凍るような家庭は辛い日々の連続だった。
             以前のような暴言や乱暴な行動は無くなっていたけど、
               少なくとも好きでもない人と一緒に生活するのは精神的に辛いものよ」
「いくらハルカちゃんには優しいパパでも、冷戦状態の両親の元は、決して良い環境とは言えないでしょ?」
 
 
外を見ていた涼子が私の方に向き直った。
「子供って敏感よね。そして、、、怖いくらいに親を冷静に見ている。
   2人の間に入って機嫌をとっているような姿を見ていると不憫に思えて、、、
     もう一度やり直そう、、、って思ったこともあるし、実際に話し合いの時間を作ってお互いに
                                  歩み寄る工夫もしたわ」
涼子の話しによれば、2人は何度も関係修復の為に話し合いの機会を持ったらしい。
一緒に温泉旅行に出かけたこともあるという。
健一郎さんも頑なに彼女のことを避けていた訳ではなく、出来ることなら昔のような関係に戻りたかったようだ。
しかし複雑に絡んだ糸は容易には解けなかった。
結局、2人の関係は以前より多少改善したものの、夫婦と呼べるようなものではなく、
同居人。
涼子が望んだ夫婦の形にはほど遠い。
もちろん、セックスレスは続き、、、寝室も別になった。 
    
「でもね、、、『同居人』そう割り切ってしまえば、それなりに暮らせるものよ。
    私も遠慮無く仕事に出るようになったし、、、友達とも遊ぶようになった。
       ボーイフレンドだって、、、もうつべこべ言われる筋合いのものじゃないでしょ。」  
      
一時、音信不通だった涼子から頻繁に連絡が来るようになったのはこのころからだ。
もう子供から手が離れていた私は、彼女に誘われるままお芝居やコンサートに出かけた記憶がある。
若いボーイフレンドの話を聞かされたのもこのころだった。   
   
「彼だって、その方がラクだったんじゃないの。
   遅くなっても愚痴られる訳じゃないし、、、家事だって最低限のことはしてあげていたし、、、
      彼女が居たかどうかは分からないけど、適当に遊んでいたんじゃないのかな」   
   
家庭内別居とは言え、一緒に暮らしている。
そんな状況でボーイフレンドを作り、夫も外で遊んでいた。
涼子はサラリと言ってのけたが、おそらくそうなるまでに相当の葛藤があったに違いない。  
    
  
「いつだったか、、、私が遅く帰った時に珍しく家で夫がお酒を飲んでいたの。
        ワインが半分くらい減っていたから、彼にしては飲み過ぎの量だった。
                 流し台で洗い物をしていたら、
 『お前、、、男が居るんだろ?』って聞いてきた。
      初めは『何言ってるのよ!?飲み過ぎじゃない?』って流してたんだけど
 『はぐらかすなよ。居るんだろ?男が!』 そう言って立ち上がると私の腕をとって
                                          『はっきり言えよ!』 って、、、」
彼女の表情が変わった。眉間のシワは苦々しい思い出が蘇ったからなのか…
「『そんなもの居ないわよ。あなた飲み過ぎよ。。。』 そうあしらうことも出来たし、
    それまではそうしてきたけど、その夜は、、、私もプチン!って切れちゃったのよね。
          握られた腕がスゴク痛かったからかもしれない。彼の手を振り解いて
                  『居るわよ。ボーイフレンドはたくさん居るわよ。』って言っちゃった」
「・・・・・・・・・・・・・」
「そうしたら、、、お酒のせいかもしれないけれど、凄い目で私を睨んで、、、
    『ボーイフレンド!? フン!早い話がセックスフレンドじゃないのか!』って言った。
        セックス、っていう言葉が出てきて、もう歯止めが効かなくなったのね。
  売り言葉に買い言葉じゃないけど、、、
 『ボーイフレンドだもん、セックスだってするわよ! 悪い?いけないこと?
     妻に指一本触れようとしない夫に、つべこべ言われる筋合いのものじゃないと思うけど!』
  頭に血が上っちゃって、、、勝手に口が動いちゃったのよ。
                      自分の言っていることに自分が驚いていたくらいよ。」 
「気持ちは分かるけど、、、それを言ったらお終いよ、、、でしょ?」
誘導尋問のようなものだが、自ら「浮気」の事実を認めてしまったのだ。
「まあね、、、でもその時、彼に女が居るのは分かっていた。
    遊び慣れていない、、、さえない中年男の相手をしてくれる女性が居たことに驚いていたけどね。
   
  あの人、、、そういうところは遊んだ経験が無いから、、、無防備っていうか無頓着っていうか、、、
     バレバレだったのよ。
   
 だから、『アンタだって浮気してるじゃないの!そう言うのをお互い様っていうのよ』
        驚いたように私を見ていた彼に、、、
 
             以前、背広のポケットから出てきたラブホテルのライターを投げつけてやったわ」
「テレビドラマの修羅場ね。 収集のしようがないじゃないの」
「そう思った。その後も、、、怒鳴り合いながら、『あぁ、、もう離婚しかないなぁ、、』って思っていたもの。」 
     
「一時間くらいキッチンでの睨み合いが続いた。
    そのうちに、2人とも口が動かなくなった。 無意味に熱くなっていた感情が冷めてくると当時に
         後味の悪い、、、苦々しい、後悔の気持ちというか、やるせない気持ちが襲ってきて、、、
  キッチンの床にしゃがみ込んで泣いた。 無性に悲しくて、切なくて、、、ずっと泣いた。
     彼も椅子に座り込んで頭を抱えていたわ。
         夫婦って、、、結婚っていったいなんなの!? そう思った、、、
   少なくとも私達は愛し合っていた、、、結婚したときは死ぬまでずっと一緒だと思っていたし、
  あの時の感動は忘れることは無いわ。 それが、、、どうして、、、ほんの少しのボタンの掛け違いで、
   
        お互いを罵り、憎むようになってしまうのは何故?」   
  

涼子の目が潤んでいるが分かった。
話しを聞いていた私も、切ない気分で一杯になる。
外から見たら「おしどり夫婦」の私達だが、やはり『離婚』を考えさせられるようなぶつかり合いは何度かある。
その時は、涼子と同じように、「夫婦ってなんなの?」そう考えさせられた。
「もうお終いね、、、 私から切り出した。
    実際、彼とこれ以上一緒に居ることはできないと思った。
       ボーイフレンドの存在も認めちゃったし、、、 
   
         そんな歪んだ家庭でハルカを育てるのも良いこととは思えなかったしね。
    あぁ、、、これで私達の結婚生活も終わりだなぁ、、、って思ったわ」   
    
「その話しって、今から5年くらい前の話しでしょ? 
    離婚しかないな、、、って思った2人が何故、、、あ、、ゴメンねヘンな質問で、、、
      どうして、その後も一緒に暮らしていたの?」   
     
ボーイフレンドの存在を認めた涼子、浮気の事実を認めざるをえなかった夫。
少なくとも、、、その段階で、この夫婦間に『愛情』は存在していないはずだ。
いくら子供のためとは言え、そんな状況下で共同生活を営むことができるのだろうか?   
  
 
「離婚届けまで用意したのよ。 でも、、、何度か話し合いをするうちに、彼が、、、
    ハルカがもう少し大きくなって、両親の離婚を受け入れられるようになるまで待とう、って。
      その変わりに、私の私生活に干渉する事もしないし、
   生活費も今まで通り入れる。 ハルカのことをちゃんとすれば、好きにして良い、って」
「やっぱり、健一郎さんはあなたと別れたくなかったんじゃないの?」   
  
  
婚姻関係を継続するに明らかな困難がある場合、、、
おそらく、法律上の離婚の定義はそんな感じで書かれているだろう。
そう言う意味で、涼子夫婦は離婚やむなし、、、の状態では無いかもしれないが、
同じ女性として、彼女の話しを聞く限り、同じ屋根の下で生活するのは難しと思えた。
健一郎さんにしても同様に感じていたはずだ。
妻の浮気を認めた上でなお、結婚生活を続けようとした彼の真意が、、、私には分からなかった。  
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・ 危機 ・・・・・・・・・・・・・ 「夫の変化」
 
 
「離婚は時間の問題かなぁ、、、という自覚はありました。
     ただ、ハルカとは別れたくなかった。でも、実際に離婚となれば、、、
仕事を始めて収入もある涼子が養育する事になるでしょう。 一人暮らしは苦にならないが、、、
   ハルカと別れて暮らすのは、、、イヤだと思いました。」
「離婚しなかった理由は、、、お子さんの問題だけですか?
     もし、仮に、、、ハルカちゃんを引き取ることができたら、離婚したんですか?」 
 

右側には、ついさっき走ってきた下り車線が見える。
トラックやバンが多いのは、、、平日のため仕事で山梨方面に向かう人が多いからだろう。
上り車線は車もさらに少なく、軽快なドライブは続く。  
    
「実際は無理でしょうね。男が仕事をしながら、、、2、3歳の子供を育てるのは容易じゃない。
   まして、当時は会社を辞めて独立したばかりでしたからね。 
   
                   離婚を躊躇っていた原因の一つでもあります。
     何とか関係回復を図ろうと、2人で旅行に出かけたり、外食をしたりと努力はしたんです。」
「改善はされなかった?」
「いや、、、改善はされたと思います。
   話しをする機会も増えたし、、、まぁ、不十分ではあったけれど家事もちゃんとやってくれていました。
      夫婦睦まじく… そんなイメージからはほど遠い状態でしたが、どこの夫婦もそんなものでしょ?
 結婚して10年近くも経てば、話しをすることだって無くなるし、、、
   僕的には、ハルカも元気に育ってくれているし、、、まぁこれで良いんじゃないかなぁ、と思っていました」
「ただ、、、セックスレスは続いていたんですね」
「そうです。涼子に対して、、、以前のように欲望が沸いてくる、、とうい事は無くなった。
    どうしても『ハルカの母親』として見てしまう。  
   
        なんていうのかなぁ、、、自分の母親と同化しているというか、、
                             自分の母親に発情する人は居ないでしょ?」
「そりゃぁ、そうでしょうが、、、   
   
    でも涼子さんは母親であると同時に妻でもあるし、、、一人の女でもあるわけで、
                       そのへんの配慮は、男として必要じゃないんでしょうか?」  
    
出産に対して、どちらかと言えば女性に厳しい考えをもっているしゅうだが、、、
実は、他の男性よりも出産を重く捉えていたし、正面から向き合っていたのだった。
だから、綺麗事だけで片づけるような事はしなかったのだと、、、私は思っている。
出産後の緩んだ体であっても、以前と変わらず愛してくれた事は、やはり嬉しかった。   
    
そんなしゅうにとって、妻を女としてみれないから、、、
   
と言う理由でセックスレスをかたづける彼に異論を唱えたかったに違いない。
   
「そうでしょうね。でも、、、もともと私がセックスには淡白だった。
    どちらかと言えば、セックスを積極的に楽しむ涼子の振る舞いには違和感を感じていたし、
      毎日のように求める事は出来なかった。 一つの布団で、、、肌を触れあいながら眠るのも、、、
   私は苦手、、、イヤ、むしろ嫌だった。 だから、当時のレス状態もさほど苦にはなりませんでしたね」
「性欲はまったく無くなった? そうなるにはまだ早いでしょう?」
「勝手な話しですが、性欲はありました。 でも、、、涼子はその対象じゃなかった。
    風俗にも行きましたが、、、どうも苦手でね。 恥ずかしながら出会い系サイトを覗いたり、、、
      実際にメールを出して逢ったこともあります。」
「その気持ちも分からないでも無いけど、、、その理屈は女性には通りませんね。
    妻に魅力を感じないから他の女で、、、一番嫌われるパターンですよ」 
    
しゅうは、温和しそうな顔で、いかにも女性の理解者であるかのように振る舞いながら、
   
しかし身勝手な事を言う健一郎さんに対して怒りを覚えはじめていた。 
  
涼子ちゃんが外に男を作るのも、、、分かる。
このダンナじゃ駄目だな、、、    
  
その空気を健一郎さんも察したのか、、、車内はしばらく沈黙する。
八王子インターを抜けたあたりで、健一郎さんが再度口を開いた。 
  
   
「ある日、、、涼子と大げんかになりました。
   まぁ、僕がかなり酔っていた事もあるんでしょうが、
        『男が居るんだろ!』と彼女に詰め寄ったんです。
  実際に、、、疑わしい事はたくさんありましたからね。 普段は、仕方ないなぁ、、と思っていたんです。
 でも、酒を飲んでいて、、、遅く帰ってきた涼子を見たときに怒りが込み上げてきてしまってね」
「仕方ない、、、というのは、夫としてやるべき事をやっていないから仕方ない、、、と思ったんですか?」
「その通りです。一緒に暮らしていては居たが、夫婦と呼べるような関係じゃなかったですから」
「なるほど、、」
「しばらく言い争いになって、、、頭に血が上った私は彼女の肩を掴んでなおも詰め寄った。
   と、いきなり涼子が切れましてね、、、男がいる!体の関係もある!って認めたんです。
    そして、『あんただって、女がいるじゃないの!』って、、、証拠品を突きつけられてね。
       夜中に大バトルでした」
まるで、昼メロのワンシーンだな、、、バカバカしい、、、
  
しゅうは心の中でつぶやいていた。   
   
「お互いに浮気している事を認め合った、、、 本当なら離婚へまっしぐらじゃないですか?」
そこまでしながら、何故アンタは涼子ちゃんと離婚しなかったんだ!?
本当はそう聞きたかった。  
    
「私もそう思いました。 
    ところが、、、その夜の事です、、、」
フロントガラスを見据えていた健一郎さんが、体の向きを変えてしゅうのほうを見た。
「私の気持ちに、、、 理解できない感情が沸き上がってきたんです」
彼の口調は明らかにそれまでと違っていた。
それに気づいたしゅうは視線を健一郎さんい向けた。
「理解できない感情?」
「嫉妬ですよ。 涼子が他の男に抱かれた、、、その場面をイメージしたとき、
     胸の奥から言いようのない巨大な、、、エネルギー、、、嫉妬心が沸き上がってきたんです。
 もちろん、それまでも浮気しているな、、とは思っていたけれど、あの夜にその事実をはっきりと告げられた。
   曲げようのない事実。その事でそれまで燻っていた嫉妬心が爆発したんだ」
     
  
 
 
爆発した!?
    
嫉妬心が爆発して、、、いったい何が変わったというのか? 
   
    
この話しをしゅうから聞いたとき、私はそう思った。
     
今さら嫉妬心!?
    
しかし、しゅうは「嫉妬」という言葉を聞いて、、、   
   
これから健一郎さんが話すであろう内容を大筋で把握したと言う。
  
 
 
 
この男も、、、コンプレックスの固まりなんだな。
  
 
 
 
    
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 ・・・・・・・・・ 出産 ・・・・・・・・・・・・・    「妻の変化」
「ハルカが生まれて、、、やっぱり父親ね。
    ウチの人も変わったわ。
       少なくとも、ハルカのことに関しては聞く耳を持ってくれたし、話し合いも出来た。
  もちろん、子育ても手伝ってくれた。
    夫婦の中に共通の目的っていうのかなぁ、、、目標、、、みたいなものが出来て、
  
      子供の話をしているときは、家族っていいなぁって、幸せを感じていたわ」 
 
健一郎さんが子煩悩であることは私も良く知っていた。
ハルカちゃんが9歳になった今でも、それは変わらない。 運動会や学芸会、発表会、そうした催し物には
必ず顔を出して、ビデオや写真を撮っているらしい。 
 
 
「でも、、、いい父親=いい夫 じゃないのよね。
      ハルカが出来たって事もあるけど、2人で出かける事も無くなった。
   お義理母さんがハルカを預かってくれても、、、2人とも別行動。
      私は買い物で、彼はパチンコ。  会話と言えば、ハルカの事ばかり。  
         もちろん、、、セックスもまた無くなった」 
     
出産後に「セックスレス」になる夫婦は多いと聞いた。 
女性の多くは、セックスそのものがイヤになったと言う。
男性の多くは、妻にたいして性的魅力を感じなくなったと言う。
どちらも分からないでもない。
或いは、セックスが必要ない夫婦もいるだろう。
涼子夫婦の場合は、、、それまでの話しの内容からも彼女がセックスを必要としていたのは明らかだった。
   
 
 
昔、、、まだ20代の頃、、、
「ランはさ、肌恋しいってことない?」
唐突に聞かれた。
「肌恋しい?」
「そう、、、男性の肌が恋しくなる。う~ん、なんて言うのかなぁ。
         彼氏の肌に触れていたい、私の肌に触れていて欲しい、そうすると安心する。みたいな」
「どうかな、、、精神的に頼りたいなって感じることはあるけど、それを肌恋しいとは言わないよね?」
「素肌がふれあっているだけでいいんだけど、、、
  
    とにかく、彼氏に包まれていたい、、、抱かれていたい、、、って思うんだ」
「ふ~ん、、、 肌恋しいねぇ、、、」   
   
    
  
涼子は昔から言葉よりも行動によって相手の愛情を感じるタイプの女だった。
手を繋ぐ、腕を組む、抱き合う、キスする、、、セックスをする。
    
愛情の深さは行動によって表して欲しい、、、
ハルカちゃんを生む前の数年間と出産後に再びはじまったセックスレスの生活は 
     
彼女にとっては苦痛だったに違いない。
私のそうした思いを裏付けるかのような涼子の告白は続く。  
  
 
「私が断乳をしたのは、ハルカがちょうど一歳になった時。
    それまでは、私自身も子育てに振り回されていたから、セックスへの欲求も無かったのかもしれない。
 むしろ、夜は育児疲れで、、、とにかく寝たかった。 わかるでしょ?」
もちろん、、、実体験として理解できる。
今思い返しても、1歳くらいまではいつも疲れていて気がする。
「何度か誘われたような気がするけど、、、
   
    私としては、セックスを求められるよりも手を繋いだり、抱いてくれるほうが嬉しかった。」
その気持ちも分かる。
常に母親として緊張した日々を送っているのだ。もちろん、、、甘えは許されない。
だから、、、せめて夫には一時、心を解放してとことん甘えたいと思う。
赤ちゃんに、タップリの愛情を注ぐには、同じような愛情を補充してもらわなくてはならない。
とは言っても、大層なものを求めている訳じゃない。
育児、大変だね。お疲れ様。
この一言で充分。    
   
 
「ようやく朝までゆっくる眠れるようになって、、、夫婦としての触れあいが欲しくなった。
   それに、もう一人子供が欲しい、、、とも思っていたしね。
     でも、彼から私を求めることは無かった。 
一緒に食事をして、一緒にテレビを見て、、、一緒にお茶を飲んで、話しをして、、、
   ごく普通の夫婦のような時を過ごしても、、、寝室に入ると2人の間に壁が出来てしまう。
     彼が私のベッドに入ってくることは無かったし、彼のベッドに潜り込めるような雰囲気も無かった。
       『おやすみ』の一言と同時に、スタンドの明かりも消されてしまう。
   そんな状態が一年近く続いたかな」 
     
涼子の口調は淡々としてた。 私の前だから、あえて感情を込めないようにしているとは思えなかった。
もう過ぎたことだから、、、
どこか冷静に当時の事を振り返っているような口調が私には「怖く」感じられた。
   
   
「やがて、、、家の中に不協和音が響くようになった。
    そりゃそうよね。お互いにふれあうこともなく、、、やがては口数も少なくなり、、、
         一緒にいることさえ苦痛に思うようになる。
   ハルカの事で愚痴の一つもこぼそうものなら、あからさまに不機嫌な顔をして自分の部屋に逃げていく
    彼の舌打ち、人を見下ろす視線、、、壁を叩く音、、、 
    
                             手こそ上げなかったけど、あれは暴力と変わらない」
「・・・・・・・・・・・・・」
「いいえ、、、むしろ、気に入らない事があったのなら、はっきりと言ってもらった方が、、、
    いいわよ、、、平手打ちの一発や二発。あの精神的重圧に比べればどうって事ないわ」   
     
そう言ったとき、彼女の眉間に深い縦皺が寄った。
「分かるわ、、、」
同情するなよ、、、しゅうの言葉は頭にあったが、涼子の言いたいことは良くわかる。
    
   
私にも同じような経験が、、、多々あるからだ。
しゅうも、決して私に手を挙げることは無かった。しかし、、、無言を突き通す彼の態度は
涼子が言うように、「暴力」にも勝るとも劣らないダメージを心に受ける。  
   
「離婚を真剣に考えはじめたのはこの時期かな。
    でも、ハルカの事を思うとね、、、 手放す事なんて考えられなかったし、、、
    と言って、一人で育てる自信もまだ無かったわね。 もちろん、、、経済的な部分での話しよ」
  
 
   
・・・・・・・・・・・・・・ 出産 ・・・・・・・・・・・・・・  「夫の変化」
高速が渋滞していないことを確認したしゅうは、
そのまま料金所を通って、中央高速を山梨方面に向かって車を走らせる。
「いやぁ、、、子供って可愛いもんだなぁ、、、
        ハルカが生まれたとき、心からそう思いましたね。
          親バカ、本当にそうなるんだなぁ、、って実感しましたよ。」
「特に、女の子は可愛いでしょう?」
「どうなんでしょうね、、、しゅうさんのところは男の子2人でしたっけね。
           でも、たまに『男が欲しいなぁ』って思ったこともありましたよ
                      まぁ、ないものねだりっていうヤツじゃないですか?」
「かもしれません」  
  
  
八王子を過ぎると景色はすっかり変わって、ここが東京か?と思うほど緑豊かな山間部が広がる。   
   
「ハルカの誕生と共に、どこかギクシャクしていた夫婦仲に少し変化がありました。
    会話が多くなった。内容はもっぱら子供の事でしたけどね。
  私も出来るだけ育児には参加するよう努力しましたよ。仕事のほうは相変わらずの状態で
              平日は帰りも不規則でしたが、少なくとも週末は必ず家で過ごすようにしました。」
   
 
夫が育児に参加するのがあたりまえの世の中になった。
しゅうはそれを悪いことだとは思っていない。しかし、、、諸手を挙げて賛成という訳でもなかった。
私が長男を妊娠したとき、、、まだその喜びにひたっているときに、
「子育ては出来る限り協力する。でも、『私一人で育てます!』くらいの覚悟をもって欲しい。
   男の子育てなんて、所詮真似事に過ぎない。母親でなくては駄目な事はたくさんある」
事務的な口調に少なからずショックを受けたものだ。
私はラマーズ法の出産を望んだが、、、立ち会いさえもなかった。
「自分一人で産んで欲しい。俺に出来ることは安産を祈ってお百度参りをするくらいだ」
出産後、、、彼の育児への理解・協力は申し分なかった。
しかし、しゅうの言葉はいつまでも私の心に残っている。
「ランが一人で育てる事になるかもしれないんだ。だから、、、一人で産んで欲しい」
賛否はあるだろうが、今はその言葉の意味を理解できる。 
 
 
そんな考えのしゅうにとって、
「育児には参加するよう努力した」
健一郎さんの言葉には反論があったはずだが、今日は、議論をする日じゃない。
とにかく、この夫婦の実情を知る必要があった。   
     
「他の男性はどうなんでしょう、、、 育児に没頭する妻を見て、、、どう感じるんでしょうね?」
健一郎さんはそう言うと、運転をしているしゅうのほうを見た。
あなたはどうでした?
彼の視線はそう問いかけていた。
「どう?って言うと、、、」
「つまり、、、それまでの妻と同じ視線で見れるか?っていう事なんですが、、、
    僕は、育児に追われる涼子を見て、、、以前の、結婚前の涼子を感じることは出来なかった。
  別人とは言わないが、外見を気にする様子もなく、化粧っけもなく、 
    
                          乳臭い涼子に以前のような『女』を感じることがなくなった」
「う~ん、、、それは出産後しばらくは仕方ないでしょうね。
    まぁ、確かにそう言う姿に『女』を感じる事は、、、自分も無かったですが、、、
        逆に言えば、赤ん坊を育てるという行為は、ある意味、もっとも『女』らしい姿でもありますよ」
「女らしい、、、そうですかね、、、」
「母乳をあげるために乳房をさらけ出している、、、もちろん、その姿に発情はしませんがね、、
                でも、妻の腕に抱かれた子供も一体化して、、、愛おしい存在には思えましたよ」
「愛おしいかぁ、、、ハルカにはそう言う感情を持ったけれど、涼子に対しては、、、どうだったかな。
   何度か彼女をベッドに誘った事はありました。 気持ちが彼女を求めると言うよりも、、、
       時折、、、性欲が沸き上がってくるというか、、、そんな時があったんです。
   でも、彼女にその気はなくて中途半端に終わってしまってね。そのうち、断られるのがイヤになって
                             自分から誘う事は無くなりました」   
  
  
車はトンネルを抜けて神奈川県に入っていた。
高速道路の下に相模湖が見える。 しゅうは時計を見て、、、ここらでUターンをすることにした。  
    
「ハルカが歩くようになって、、、
  子育ても一段落、、、でも、僕ら夫婦には以前のような良好な関係は戻ってこなかった。
    涼子は自分の年齢の事も考えてか、もう一人子供を欲しがっていました。
  でも、僕は彼女に『女』を感じなくなっていたのかもしれない。その気にはなれなかった。
    ハルカと一緒に風呂に入っている彼女を見ても、その垂れた乳房や緩んだお腹に発情することも無いし、、、
    
  なんだか女とは別の、、、やっぱり『母』なんでしょうかね。 セックスの対象から外れてしまった。」   
  
 
しゅうは一度高速を降り、しばらく一般道を走って
一つ先のインターから再度高速の上り線に乗って東京へと戻る事にした。   
    
「そういう男性の話は良く聞きますが、、、
   幼児を抱えている女性に、、、母親と妻、、、2役を求めるのは難しいと思いますよ」
「それは分かっています。 頭ではね、、、」   
  
  
北風が吹き付ける湖面がさざ波立っている。
車の中は快適だが、外は相当寒いに違いない。
健一郎さんは外を眺めながら当時の事を反芻するかのように語っていた。
「結局、、、ハルカが生まれて1年で、夫婦の間には以前のような溝が出来ていた。
   それからは、お互いに歩み寄る努力もしなかったし、まぁ、冷めた夫婦関係でしたね。
                                          もちろん、レス状態は続きました」
車は再び高速に乗った。
    
たった今来た道を引き返すのだ。
      
涼子夫婦の亀裂は思ったよりも深い。
    
2人が言うように、今回の事(火事)が無かったとしても、遅かれ早かれ結婚生活は破綻しただろう。
     
少なくとも、、、今までの話しを聞く限りはそう思わざるをえなかった。 
 
 
 
 
 
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 ・・・・・・・ 流産 ・・・・・・・・ 「夫の視線」  
 
 
 
しゅうと健一郎さんは、しばらく一般道を走りながら適当な喫茶店を探したが
国道沿いはファミレスばかりで、落ち着いて話しができるような店は無かった。
「どうですか? このまま車の中で話しませんか? ここなら誰にも邪魔されませんし、、、」
しゅうは目前に迫った高速道路入り口を見ながら健一郎さんに聞いた。
「私は良いですが、、、運転大丈夫ですか? 昨夜も遅くまで面倒かけたようですし、」
「私は平気です。 じゃぁ、、、高速に乗っちゃいますね」
        
  
週末の中央高速。 下り線は富士五湖方面へ向かうマイカーで渋滞する事が多いのだが、
この冬一番の寒さに外出を控えた人が多かったのか、
渋滞を示すランプは付いていなかった。 
 
 
「しゅうさんには、世話になってばかりで、、、
    
     涼子の仕事まで紹介してもらって、本当に感謝してます。
          昨日の事も、、、さっき病院に聞いたら個室を用意するように手配してくれたんですって?」
「あ!いや、、、 そういうつもりじゃなかったんです。
    たまたま、知り合いの医者が居たモンでね。ちょっと声をかけたら気を効かせてくれたんですよ」
「ありがとうございました。
     今回の事ではなんてお詫びして良いか、、、」
「止してください。 謝らなくちゃいけないのは私の方なんですから、、、
      宇佐見君を涼子さんに紹介したのは、他ならぬ私ですし、、、
          仲が良さそうだなぁ、、、と想ったことはあったんですから、もっと早く一声かけておくべきでした。」
「いや、、、悪いのはしゅうさんじゃありませんよ。
    宇佐見さんにも、、、まぁ、まったく憤りを感じないと言ったら嘘になりますが、
     そもそもの原因は私達夫婦にあるんです」
   
「今朝、涼子さんからランに届いたメールにも同じような事が書いてあった。
 
      失礼ながら、お2人がそんな危機的状況にあったとは思えないんですよ。」
「仮面夫婦、、、少なくとも、ここ数年はそんな状況でしたね。」 
 
 
    
健一郎さんはゆっくりと、、、言葉を選びながら話しを始めた。
「彼女の言動に疑問を感じたのは、、、ご存じだとは思いますが、初めての子供を流産した時です」
しゅうもその事は知っていた。
「実はあの時、、、僕は、、、子供はまだ欲しくない、、、そう思っていました。
   会社のほうが色々と問題を抱えていて、将来に不安もあったし、、、
       子供を育てる自信も無かった。
   でも、子供を欲しがる涼子に押し切られた、、、そんな状態での妊娠でした」
育てる自信が無い、、、
男なら少なからずそんな気持ちを持っている。
しかし、妊娠~出産~子育て、、、これは夫婦共同の作業であり、
彼女一人が勝手に妊娠したわけではないのだから
涼子に押し切られた、、、という理屈は、「逃げ口上」でしかない。 しゅうはそう思った。
 
 
 
「流産を知ったときは、ショックの裏に、、、微かな安堵感があったのは事実です。
     しかし、涼子の落ち込みようは僕の想像を遙かに超えていた。
          夜、自宅に帰るとまだ9時前だと言うのに家の中は真っ暗。
   もちろん、、、食事の支度も、掃除も、洗濯も、、、出来ていない。
       私は、自分でメシを作って、風呂の準備をして、寝室で寝ている涼子を起こし、、、
                                     風呂に入れる。 そんな生活が続きました」 
    
車は順調に都心を抜け、、、ユーミンの歌詞の通り、、、
   
競馬場を右手に、、、ビール工場を左手に見ながら、軽快なドライブが続く。
   
もっとも軽快なのは車のエンジンだけで、車内には重苦しい空気が漂っている。 
  
「気晴らしに外にでろよ、、、買い物でもしてストレスを発散しろよ、、、
    色々アドバイスをしたんですが、効果は無かった。
   そのうち、オフクロとも折り合いが悪くなってね。お手上げ状態でしたよ」
「妊娠~流産、、、幸せの絶頂から地獄へ突き落とされたんですから、
    涼子さんも相当辛かったんでしょうね」
「そうれはそうでしょう。だから、僕も出来る範囲で協力をしていたつもりですよ。
   でも、悪いときには悪いことが重なるモンでね。 
    
              その時期、、、会社の先行きが不透明になっていたんですよ」
バイオリズム、、、そんな言葉で片付けたくはないが、得てして人生はそう言うものだ。    
   
   
「僕にとって、、、涼子も大切、失った子供の事だって決して気にならない訳じゃなかった。
     
   でも、生活の根源である『仕事』が不安定では、夫婦関係を立て直すことだって出来ないでしょ?
        
      涼子の事が気になりつつも、、、やがて仕事の方に没頭するようになりました。」
         
その時、彼の会社がどれほど危機的状況だったかは分からないが、、、
   
後に彼は、会社に見切りを付け同僚と一緒に退職し、独立した。 
   
        
「涼子が精神的にそうとう参っているのは分かっていました。
   
   でも、僕だって、、、同じように辛かった。流産~仕事~嫁姑、、、現実逃避かも知れないが、
   
      会社の立て直しで奔走する事のほうが肉体的にも、精神的にも楽だった。
    
   家に帰る時間が遅くなり、、、顔を合わせる事も少なくなった。」
         
    
ボタンの掛け違いがあったとは思えない。
    
確かに、いくつかの部分で「それは言っては駄目だよ」とか「こうしたほうが良かったのに、、、」
    
と感じる部分はあるが、、、それが即、夫婦の亀裂に繋がるとは思えないのだ。
       
流産、、、という悲しい出来事がこの夫婦に「歪み」をも与えたのだ。
   
        
「どうでもいいような小さな事で、、、涼子とぶつかるようになりました。」 
 
 
 
  
   ・・・・・・・・ すれ違い ・・・・・・・   「妻の気持ち」
涼子は私に話しをするうちに、当時、辛かったことを思い出しているのだろう、、、
窓の外を見る目が険しくなっていた。
「気持ちがすれ違ってしまうと、、、体の中から沸き上がってくるような感情もなくなるでしょ?
    だから、夫婦のセックスも無くなったわ。  
     
               もともと淡泊な人だったし、彼から私に手を伸ばすこともしなくなった」 
   
私は当時の事を思い出そうと、頭の中の日記帳を読み返していた。
確か、、、長男が小学校4年生で、、、あのころは、、、
あまり涼子との記憶が無い。
流産した彼女の事を気遣って、と言うよりも、どんな言葉をかけていいのか分からなかったし、
気にしつつも、彼女からの連絡を待っていたのだと思う。
   
最近、、、涼子元気ないのよね~~~
丁度その頃、、、2人共通の友人からそんな電話をもらったのを思い出した。
精神的に参っている時期で家に引きこもり気味だったのかも知れない。 
         
  
「彼の仕事が上手く行かなかった時期が重なって、、、
     流産してから1~2年は最悪の時期だったわ。」
涼子にとっては辛い時間だったことはもちろん理解出来た。 
      
彼女が語る当時の様子は、その背景(流産からの夫婦の確執)を考えれば同情に値する。
会話の無い生活、心ない夫の言葉、身を削がれるような無神経な行動、、、 
     
「食事だって、、、私がつくったものは気に入らないのよ。
   確かに、私はランと違って料理下手よ。 でも、 
   
      おかずには手を付けずに、ご飯にみそ汁をかけて食べる。
        台所からふりかけを持ってきてそれをかけて食べる。 それは無いでしょ!?」 
    
   
ランと違って、、、どうして私を引き合いに出したのか分からないが、、、
たまに涼子が私にたいして対抗心を持っているのでは?と思うことがある。
作ったおかずに手を付けない、、、確かに気分の良いものでは無いだろう。
   
でも、どんな夫婦だって多かれ少なかれ同じような悩みを抱えて生活しているのだ。
 
ウチだって、おかずの品数が少ないと、黙ってキッチンに向かってしゅう自ら料理をする事がある。
初めのうちは私に対する「当てつけ」と思い、気分は良くなかった。
今では、、、
「それはそれで手がかからなくて助かる」
そう考えるようになった。しかしそう思えるようになるまでには何度かしゅうとぶつかる必要があった。
彼女の話しからは、その最悪の状況を打破しようとなんらかのアクションを起こした様子は伺えない。
健一郎さんからのアプローチをひたすら待っていた、、、私にはそう感じられた。 
  
 
「ビールが冷えていない!と言っては怒鳴り、
   
    みそ汁が冷めてると文句を言い、、、風呂がぬるいと愚痴を言い、、、
                   私は温度計を持って家事をしている訳じゃないわ!」  
 
 
   
ビールがなくなったら補充しておいてね。
冷めたおみそ汁は温めればいいでしょ。
いつ帰ってくるか分からないからお風呂は保温してないわよ。 
     
これを言えばぶつかり合いになるだろうが、言わなければ、受け入れたのと同じ事になってしまう。
「子供が出来れば、、、夫婦仲も変わるかも、、、私はそう思った。
   それに、年齢的にも出産に「焦り」を感じていたのかも知れないわね。
だから、意を決して、、、『赤ちゃんが欲しい』と彼に打ち明けたのよ」 
    
夫婦仲を良くするために子供を作る、、、どうも話しが逆のような気がするが、
それはなんの苦労も無く、妊娠~出産することが出来た、、、私の価値観なのだろう。 
 
「ランには分からないと思うけど、、、
    妊娠だけを目的としたセックスって、、、辛いものよ。
       その時、『あぁ、、、私はこの人を愛していないんだなぁ、、、』って思った。
  それは彼も同じだったかもね。 不能状態だったり、、、途中で駄目になっちゃったり。
          終わった後の虚しさ、、、余韻も何もない、、、白けたベッドは居心地が悪かった」
「その時、、、あなたの気持ちは健一郎さんから完全に離れていたの?」 
   
愛していないんだなぁ、、、って感じた人の子供を産みたいと思ったのだろうか?   
  
「完全に離れていた訳じゃないわよ。 それは、、、今も、、、同じだと、、、思う」
今も同じ、、、その言葉に力は無かった。 
   
「あの時は、子供を作る、、、その共通の目的を持つことで以前の2人が取り戻せると思っていた」
子はかすがい、、、と言うけれど、これから子供を作ろうという夫婦にも同じ事が言えるのだろうか?
「初めの子供を妊娠するまでは苦労したのに、、、 2人目は早かった。
    皮肉なものよね。」
涼子は相変わらず、窓の外を見ながら話しをしていた。
その視線は、微かに見える稜線のその向こう、、、随分と遠いところを見ているようだった。 
   
   ・・・・・・・・・・ すれ違い ・・・・・・・・・   「夫の気持ち」
 
 
しゅうの車は国立ICを過ぎ、八王子へと向かっていた。
このあたりまで来ると、山並みが近づいて景色も23区内とはすっかり変わって「東京」のイメージは無い。
外気温も都内と比べると2~3度は違う。
エアコンの効いた車内は快適そのもので、、、健一郎さんの話しも車の流れのようにスムースだ。   
       
「夫婦生活は無くなりました。」
いきなりストレートを投げ込まれた。
「つまり、、、セックスレスっていうことですね」
しゅうもそのストレートを素直に打ち返す。
「そう言うことです。 普段の涼子を見ている限り、、、
    そんな雰囲気にはなれなかったし、私自身の欲求も無くなっていた。
  まぁ、、、しゅうさんには分かるでしょうけど、性欲はちゃんとあるんですよ。
      でもね。 腫れ物に触るように接していると、そう言う対象では無くなるんですよ。
                とてもじゃないが、、、セックスの話しをするような気にもならない。」 
    
しかし、、、腫れ物を放置しておけば、化膿し、、、場合によっては致命的な「ガン」にもなり得るのだ。
その段階であれば、話し合いで解決する事も出来たであろうに、、、
時として現実を直視するのが辛い事はあるが、後回しにすればなおさら辛くなるのだ。
健一郎さんの話しを聞きながらそうしゅうは思った。   
   
「仕事のストレスとも相まって、、、いつまで経っても『流産』の悲しみを引きずる涼子に
    不満を感じるようになりました。 会話も無くなったし、、、顔を合わせるのがイヤな時さえあった。
        夫婦2人の狭いマンションです。家では逃げ場が無いですからね、、、
  
                『帰宅拒否症』なんて人ごとと思っていたが、まさか自分がそうなるとは」
     
    
右手に流れる川は、多摩川だろうか?
土のグラウンドで子供達が走り回っているのが見えた。 おそらく、、、街のサッカーチームだろう。
強い北風に土埃が舞っている。 
健一郎さんもその様子をぼんやりと見ていた。 
    
「彼女に辛くあたった事も正直、、、あると思います。
    その自覚はあるんだ。でも、、、こじれてしまった関係は容易に元に戻るものじゃない。
             彼女の一挙手一投足が気に障る。
  例えば、、、流産から1年ほどしてようやく家事をするようになった。 
   
                           と言っても、夕食と洗濯くらいですがね。
    で、疲れて帰宅すると、雑誌やら新聞やら、広告やら、山と積まれたテーブルに食事を並べ始める。
   みそ汁の入ったお椀を平気で新聞紙の上に置く。 仕事のストレスで胃が弱っていると言うのに、
        スーパーで買ってきた惣菜もののトンカツや天ぷらを何日も続けて出す。
             食べないんじゃなくて、食べられないんだ。 食欲も失せてしまいますよ」  
  
 
なら、、、自分で作る。 
       
と言う選択肢もあっただろうに、、、としゅうは思ったが、もちろん口には出さない。 
      
「僕はそんなに酒が強い方じゃない。でも、風呂上がりのビールは大好きです。
    毎日、一本の缶ビールは何よりも楽しみにしているのに、冷蔵庫にビールが入っていない。
        買い置きがない、、、『ビールは?』と聞くと自販機で買ってきて、、、と言う。
  こんな事で怒るなんて大人げないとは思いますがね、、、僕だって外で戦ってきてるんだ。
     せめて家に居るときぐらい、つまらん気は使いたくないですよ。 しゅうさんだってそうでしょ?」 
    
同意を求められてしゅうは答えに困っていた。    
ランだって、似たり寄ったりだ。 夕食時、、、ビールが冷えていない事なんて当たり前のようにある。
だから、書斎の冷蔵庫にはいつもビールが満タンに入っている。
「これ作ったんだ、、、食べてみて!」
とタップリのバターを使ったパイ生地で作ったアップルパイをデザートに出してくる。
俺がダイエットしているのを知っているというのに、、、 
   
   
とは言え、健一郎さんの気持ちも分からないでもなかったしゅうは、、、
    
「まぁ、、、確かに、家ではリラックスしたいですが、、、 
                 主婦には主婦の言い分もあるでしょうしね」
  
と曖昧に返事をした。 
    
   
「それは分かってますよ。でも、、、僕が言いたいのは気持ちの問題なんですよ」  
    
蜘蛛の巣にかかった蝶が、その毒牙から逃れようともがいている。
しかし、絡みついた蜘蛛の糸はもがけばもがくほど体に絡みつき、その自由を奪っていく。
当時、、、この夫婦はお互いにもがき苦しんでいたに違いない。   
   
  
「子供が欲しい、、、涼子がそう言ってきたとき、
    無責任かも知れないが、『それも一つの方法かなぁ』と思いました。
      反面、また流産するような事があったら、、、夫婦生活は破綻する。とも思いましたがね。
 でも、このまま行けば、どの道俺たち夫婦はお終いだ。 
     子供が出来れば、また新たな気持ちでやり直す事が出来るかも、、、そう思ったんです」
子供が出来たことで責任感が生まれ、、、ガラリと変わった男は確かに居る。
しゅうの会社にも、親としての自覚からか勤務態度や勤勉意欲が激変した社員が居る。 
    
「1年以上、、、セックスレス状態でしたから、お互いにギクシャクしてましたよ。
    終わった後も、、、なんだろうなぁ、、、罪悪感というか、、、そう、ちょうどオナニーした後の、、、
         虚しさみたいなものを感じましたね。
                それでも、皮肉なモンで、、、早々に涼子は妊娠しました。」   
    
愛し合って、、おたがいを求め、妊娠を望んだときは思うに任せず、、、
夫婦の確執を解消するために、冷えた体をあわせた時にはすぐ妊娠する。
まったく人生というヤツはままならないものだ。
しゅうは近づいてきた八王子インターで高速を降りようか、、、それともこのまま高速を進もうか、、、
思案しながら、健一郎さんの話しに耳を傾けていた。 
 
 
 
 
  
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しゅうは、健一郎さんと病院を出た後、どこか静かなところへ、、、と車を走らせたらしいが、
適当な店が見つからず、結局車の中で健一郎さんの話しを聞くことになった。
私は涼子の病室で、、、 想像以上に明るい表情の彼女から告白話を聞いた。
健一郎さんの話しはしゅうからの又聞きになるが、さすがにしゅうは要点を押さえていて
後から聞いた私にも、健一郎さんの心の葛藤や、痛みが伝わってくる内容だった。
夫婦は難しい、、、、、 そう改めて思わされた、、、健一郎・涼子夫婦の告白話だった。
 
 
ドアをノックすると、意外なほど明るい涼子の声が帰ってきた。
「ラン、、、もう来てくれたの? 
      ありがとう。 本当に助かったわ。 あなたが居なかったら、、きっと錯乱状態になってたかもね」
そう言って笑顔を見せた。 
 
 
「良かった、、、 元気そうじゃない? 午後には退院だって?」
「うん。 だいたい怪我自体は入院するほどのモンじゃ無かったんだし、、、」
「ご両親は? ハルカちゃんと家に帰ったの?」
「みんな疲れてるし、、、母は昼過ぎには着替えを持って来てくれることになってる」
「そう。 ご両親に心配かけちゃったね、、、」   
  
「そうね、、、両親を心配させちゃったのが一番応えた。 とくに、、、父は相当怒ってたし、、、」
「そりゃそうよ。 火事にあったって聞けばそれだけでも参っちゃうのに、、、
    状況が状況じゃないの。 お父さんにすればショックだったんじゃないの?
   
       立場的には『男』って言う意味で、健一郎さん側なんだから」 
 
 
もし、、、私だったら!?   
 
 
やはり今回の件は、、、どうしても自分の見に置き換えて考えてしまう。
ことによったら、、、涼子の代わりに私が火事に巻き込まれていたかも知れないのだ。
しゅう公認とはいえ、世間的には「不倫妻」のレッテルを貼られてしまう。
仕事にも当然影響するだろうし、、、 親兄弟、、、そして子供達にはどう説明したら良いのだろう?
父はなんて言うだろう? 
  
父は他界してもう居ないが、おそらくは、何も言わずに平手打ちを食らわしたに違いない。
  
学生の頃、、、門限が過ぎると玄関の前で仁王立ちで私を待ち構えていた父の姿が蘇った。
きっと、、、火事の怪我よりも非道くぶたれるわよね。  
     
じゃぁ、、、お母さんはなんて言うのだろうか? 
大正生まれの母はいつも父の後ろで小さくなっていた。
何をするにも 
 
「お父さんが、、、」 「お父さんに、、、」  
    
父の事を優先していた。 そんな母にとって、夫を裏切る行為を許せる事なのだろうか?   
    
「とんでもないことをしでかして!」
と私の事を罵倒するのだろうか?それとも、、、嘆き苦しむ私を抱いて、、、励ましてくれるのだろうか?   
 
 
お母さんはどっちかしら??
父が亡くなってからは、友人と旅行三昧で顔を合わせることも無くなった、、、母の事を思い出した。
「でも、、、両親には、、、とくに母には、私達夫婦の事を以前から相談してたのよ。
                             だから、、、ある程度、理解はしてくれた」
私達夫婦の事…  
      
やはり、しゅうの言うように、涼子達夫婦には何か外から見る事の出来ない亀裂が入っていたのか。
私はベッドの脇に置いてあった丸椅子に腰をおろし、横になっている涼子の事を改めて見つめた。  
  
    
「ねぇ、、、涼子、、、 ヒロ君の事を紹介したのは私。
    単身赴任、、、まぁ、本当は独身だったんだけど、、、その彼を安易に紹介したことを
       今はとても後悔している。 2人を繋ぎ合わさなければ、涼子が火事に巻き込まれる事も、、、
     いいえ、、、火事が起きることも無かったかも知れない。
 
だから、あなた達夫婦が、、、別れるような事にはなって欲しくないと思ってる。
      夫婦の話しを根掘り葉掘り聞くのは私の趣味じゃないんだけど、、、
         昨日から、涼子の言葉が気になって仕方なかった。そして、、、さっきのメールでしょ?
              この際だからはっきり聞かせて欲しいの。 あなた達夫婦に起こっていることを、、、」  
 
  
 
 
 
 
           ・・・・・・・流産・・・・・・・     「妻の視線」
 
     
 
 
涼子は病室の窓の外を見ながら黙って私の話を聞いていた。
日本海側は相変わらず大雪だと言うのに、強い北風が吹いている東京は、、、 
     
目が覚めるような青空が広がっている。 
 
建物の間からは、頂に雪を纏った、、、秩父山麓の山々が見えた。
涼子の視線は、昨日までの暗いそれとは違って、、、空のように済んでいるように見える。 
     
「ランには話しておかなくちゃ、、、って思ったの。だから、、、昨夜からどう話そうかなって考えていたわ。
     ウチの人は、、、しゅうさんと一緒でしょ? きっと彼もしゅうさんに同じような事を話すと思うわ。
  今さら隠し立てすることも無いし、、、ちゃんと話しをします。」 
    
涼子は上半身を起こして私と向き合った。   
      
「話しは随分昔に遡るのよ。 だから、長くなるわよ。覚悟してね」
「大丈夫よ。あなたの話しを聞くのは得意なんだから」
昔から、涼子が話し手、私が聞き手と決まっていた。 
 
 
 
「結婚して2年目だから、もう10年以上、前の話しだわ」
「10年以上前!?」
    
そんな昔から涼子夫婦に問題があったというのだろうか?
もっとも、どんな夫婦だって多少の諍い事は抱えてはいる。
「私が流産した事、、、覚えているでしょ?」   
    
忘れるはずも無かった。待ちわびた妊娠報告があって、、、 
     
わずか2ヶ月後に泣きながら私のところへ電話をかけてきたのだ。   
    
同情したり賛同したりするなよ!しゅうの忠告が頭をよぎった。   
「もちろん」
簡単に相づちを打つ。  
    
「ショックなのは当然の事。 女としての存在意義さえも否定されたような気がした。
   退院した私をウチの人は優しく迎えてくれたわ。
       『君が悪いんじゃない。また、つくればいいさ』って、、、
    その言葉で癒されたのは事実だけど、立ち直るには時間がかかった。
 テレビを見ていても、雑誌を読んでいても、『赤ちゃん』っていう言葉に敏感に心が反応してしまう
     台所に立っても、掃除をしても、どうしても赤ちゃんにリンクしちゃって、、、家事が億劫になってた。」 
   
幸い流産の経験は無いが、、、 
     
一度でもお腹に命を宿したことがある女なら、涼子の気持ちは理解できるだろう。   
  
「うん、、、」
「2ヶ月ほどたって、体の調子も随分良くなって、、、気持ち的にも立ち直りつつあった。
        そんなある日、、、お義理母さんが家に来たの。 
    たまたまミニスカートを履いていた私を見て
   『いい年して、そんな格好しているから、流産しちゃうんだよ』って、、、怒られた。
 妊娠が判ってからはいつも暖かい格好をしていたし、ハイヒールももちろん履かなかった。」
「うん、、、」
    
   
スタイルの良い彼女はミニスカートがよく似合う。スラリと伸びた脚は同性から見ても魅力的だった。
40を過ぎた今だって、若い子にも見劣りしない脚線美を持っている。   
     
「別にその言葉で非道く落ち込んだ訳じゃないわ。
       お義理母さんにとっても待ちに待った初孫だったから、同じようにショックだったんだろうし、、、
    一言、、、いいたかったんだろうな。そう解釈したわ。
  でも、その日、お義理母さんは相当ウチの人相手に愚痴を言ってたのよ。
    きっと何処にも持って行きようの無い憤りを自分の息子にぶつけたんじゃないのかな?
       私はいっその事、全部吐き出してもらった方がいいかなぁって思ったからその場には居なかった。
  そうしたら、、お義理母さんが帰った途端、、、まさに玄関が閉まった途端よ、、、
   ウチの人が私を睨みつけて、
    『おふくろの前でそんなパンツが見えるようなスカートを履くなよ!
      だいたいなんだ!今日の態度は!部屋に閉じこもってままで、、、
          あれじゃ反省しているどころか、、、まるで文句でもあるみたいじゃないか!』
      と言ったの、、、、私は耳を疑ったわ。
                 だって、、、またミニスカートとハイヒールをはいてくれよ。って言ったのは彼よ。」
      
    
  
健一郎さんにとって涼子は自慢の彼女で、、、     
     
結婚したときは廻りからも美女と野獣と冷やかされたりもした。
「涼子のスタイルは俺が言うのもなんだけど、、、良いんだ、、、」  
    
一緒に海に行ったとき、水着姿の彼女を見ながらそう自慢していた。
またミニスカートをはいてくれよ。と言ったのは彼、、、 
    
その涼子の言葉は真実に違いない。
   
しかし、その言葉の裏には、 
     
以前のような元気で、魅力的な涼子に早く戻って欲しい、、、そんな願いが込められていたに違いない。 
 
 
「それに、、、『反省しているどころか』、、、って言う言葉が出るのは、
   やっぱり流産したのは私が悪い、私のせい、って彼は思っていたのよ。
     もちろん、流産したのは他ならぬ私よ。でも、だれも望んでそうなったワケじゃない。
  誰よりも 赤ちゃんをこの手に抱きたかったのは 私だわ! お義理母さんでも夫でも無い。私よ!
    そして、一番辛い思いをしたのも、、、私だわ」 
 
 
涼子の肩が微かに震えていた。 
 
 
しかし、、、昨夜のように彼女の大きな目から涙が溢れる事は無かった。
流産、、、この夫婦を襲った不幸な出来事。  
   
   
10年以上前のこの出来事が、今の2人の亀裂の原因になっているというのだろうか?
    
だとしたら、その後、積み重ねられた夫婦の時間、、、家族の時間、、、 
 
それらはあまりに脆い基盤の上に成り立っていたという事なのか?   
 
 
    
端から見たら円満で非の打ち所がない「家庭」  
   
実は、、、
   
    
砂上の楼閣
       
  
夫婦は難しい。
     
 
 
 
 
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翌朝、、、いつもよりも早く家を出たしゅうは
会社で仕事の段取りを済ませてから病院に駆けつけることになっていた。
「多分、、、10時には行けるよ」
届いたメールにはそう書いてあった。
今日は、健一郎さんが帰ってくる。イヤ、、おそらくそろそろ病院に到着する頃に違いない。
大雪の影響で空港は閉鎖。帰京の術も無く、、、
火事で怪我をした奥さんの元に駆けつける事も出来ずに、
ホテルで一夜を明かすことになった彼の心中は察するに余りある。
しかも、、、奥さんは不倫相手の部屋に居たのだ。 
  
不安、怒り、、、嫉妬、、、苛立ち、、、様々な感情が頭の中に錯綜したはずで、長く辛い夜になったはずだ。
彼の気持ちを考えると、しゅうが頭を下げたくらいでおさまる話しでは無いだろう、、、と想像は出来た。
 
    
簡単に掃除を洗濯を済ませた私は、病院でしゅうと落ち合う事を考慮し、 
 
車を使わずにタクシーで病院に向かうことにした。   
タクシーのカーラジオから流れるラジオ番組はDJの口調も、内容も、BGMも脳天気で、
寝不足のせいか耳鳴りと頭痛を抱えていた私にとっては、不愉快きわまりない雑音だった。
空気が乾燥しています。火の元には充分注意して下さいね
女性アナウンサーの言葉には耳を覆いたくなった。  
  
    
タクシーを降り、駐車場を横切ってエントランスに向かう。
車の列に見慣れた、、、しゅうのステーションワゴンが停まっていた。
携帯を取り出すと、メールが2通、、、届いていた。
1通はしゅうからで
「昨日の談話室にいる」
着信時間を見ると、もう15分以上前に病院に着いているようだった。
2通目は、、、 
  
  
涼子!?
「夫がもうすぐ来ます。あなたやしゅうさんには迷惑をかけたくありませんが、
    ヒロはしゅうさんに紹介してもらった事にします。 
          でも、私達夫婦は今回のことがなくても、もう終わっています。
                             だから、何があっても気にしないでね。」
気にしないでね、、、と結ばれているが、笑って見過ごせるような内容ではなかった。 
   
もう終わっています。   
  
涼子と健一郎さんが終わっている!? どういう意味で終わっているのだろうか?
彼等夫婦と最後に会ったのはもう随分と前の話しだが、
社交的な涼子とは対照的に温和しく控えめな健一郎さん。
笑っている彼女を優しく見守るその姿を見ながら、、、バランスの良い夫婦だなぁと思ったものだ。
離婚したいとか、考えているとか、、、そんな話しはおろか、喧嘩している様子さえ私には見せなかった。 
  
いったいいつからそんな状態になっていたのだろうか?
或いは、ヒロに逢って、付き合い始めて、健一郎さんから気持ちが離れでもしたのだろうか?
 
   
もう!いったいどうなっているのよ?
 
 
ヒロはてっきり既婚者だと思っていたのに、実際はバツイチ、独身で、、、
仲が良い夫婦と思っていた涼子のところは、彼女曰く「もう終わっている」
何が本当で、何が嘘で、、、
耳鳴りの症状はより悪化し、、、目の奥がうずくように痛くなっていた。 
     
私は早足で、混み合う受付を通り抜け、昨日の談話室に向かった。
しゅうには頼ってばかりで申し訳ないが、  
     
私の耳鳴りと頭痛を鎮めてくれるのは彼しかいないような気がした。   
    
  
  
 
談話室の入り口から中を見渡す。
昨夜は人の出入りもほとんど無かった部屋だが、朝のこの時間帯は入院患者も含め大勢の人が居た。
と、奥の席に座っているしゅうの姿が目に入った。
どうやら一人ではなさそうだ。 
 
あ!健一郎さん。
 
 
しゅうの前に座っている男性。顔は見えないが、涼子の夫、、、健一郎さんに違いなかった。
私の姿に気づいたしゅうが立ち上がって手を上げた。
座っていた男性がこちらを振り向く。やはり、、、健一郎さんだった。  
  
    
「ランさん、、、涼子がご迷惑をおかけして、、、本当にごめんなさいね」
そう言うと、健一郎さんは深々と頭を下げた。
「とんでもない、、、迷惑だなんて、、」 
     
心が痛む。
ヒロとの複雑な関係が私にもあるだけに、、、言葉を失ってしまう。   
    
「あの、、、涼子には、、、」
涼子から届いたメールが頭をよぎる。 
   
もう終わっている。   
    
健一郎さんも、、、もう終わったと思っているのだろうか?   
   
   
「逢ってきました。 もう、、、今日の午後には退院できるそうです。」
「そうですか、、、あの、、、」
「大丈夫、、、ちゃんと落ち着いて話しをしていますよ。
    昨夜一晩考える時間があったんでね、、、冷静に対応してますから、心配しないで下さい」   
     
私は横に座っているしゅうの顔を見た。
2、3度 軽く頷くしゅう。
その話しは、、、それ以上するな。
そう言っているようだった。 
      
「高橋さん、、、 ここではなんですから、ちょっと場所を変えましょう。
  
                     あ、、、その前に、、、ちょっと失礼しますね。」 
   
 
しゅうはそう言うと立ち上がって私を手招きした。
廊下はやはり大勢の患者さんやその家族、、、看護師、、、医師が行き交いまるで雑踏のような賑やかさだ。 
   
 
「あのな、、、これから健一郎さんを連れて外へ行く。 話しの内容が内容だからな。
                     どうやら、俺が思ったよりもあの夫婦、、、こじれてるぞ。」
「こじれてる?」
「うん、、、どうやらあの夫婦は以前から問題を抱えていたようだな」
「やっぱり、、、さっき涼子からメールが来たんだけど、、、内容がね、、、」  
     
私は携帯を取り出すと、涼子のメールを呼び出してしゅうに見せた。   
    
「なるほど。 もう終わってますかぁ、、、 
    今朝、ここで健一郎さんに逢ってすぐに頭を下げたんだ。
      『仕事上とはいえ、宇佐見さんを紹介したのは軽率でした』ってね、、、
  そしたら、、、『いや、それ以前からの問題ですから、、、、』って言うんだよ。
                           おしどり夫婦だとばかり思っていたけどなぁ、、、」
「・・・・・・・・・・・」
    
夫への不満、、、多くの妻が持っている事だが、得てして夫側はそれに気づかない。
   
それは、健一郎さんにもしゅうにも言える事で、 
       
「俺たち夫婦にはなんの問題も無い。」 
    
そう思っているのは実は夫だけ、、、よくあるケースだ。
   
「涼子さんとどんな話しをしたか分からんが 
   
           俺たち夫婦には本当の事を話した方が良いって思っているようだ」
「本当の事、、、」 
    
もう終わっている。
その意味を教えてくれると言うのか。   
     
「とにかく、俺は彼とどこか別の場所へ行って話しをするよ。
 
    ランは、、、涼子ちゃんの病室へ行って話しを聞いてこい。   
   
   今なら、ご両親はハルカちゃんと家に戻っているしヒロの家族も居ないから、2人だけで話しが出来る。
         4人で病室で話し合うよりも、その方が本音の話しが出来ると思うんだ。」
「分かった」
「くどいようだが、、、お前が苦しくなってベラベラと告白話しなんかするんじゃないぞ。
     人間には苦しくとも墓場まで持って行かなくてはならない『秘密』が必ずあるんだからな」 
       
その時だけ、、しゅうの目が鋭くなった。
ヒロと私としゅうの関係、、、 
     
この秘密の関係は永久に3人だけの秘密として封印される事になるのだろうか、、、
どこか身勝手なような気がした。   
   
 
「・・・・・・・・・・・分かったわ」
「それと、、、彼女の話を聞くとき、へんに同情したり、賛同したりするなよ。
                   話しが湾曲してヘンな方向へ行きかねないからね」
湾曲するとは思わないが、話し自体が長くなることにはなりそうだ。
でも、女性の場合は、お互いに相槌を打ち合いながら話しを進めていくほうがスムースなケースもある。
    
  
「気をつけるわ」
「そうだな、、、昼過ぎには戻るつもりだ。それから、医者の許可がでたらヒロにも逢っておきたい」  
   
と、時計を見ながらしゅうが言った。
ヒロの様態はどうなのだろう?
あのミイラのような状態を見る限り、昨日の今日で話しが出来るほど回復しているとは思えないが、、、
様態が急変、、、なんて事はないのだろうか?
気にはなったが、私が担当医にあれこれ聞く立場でもない。
「じゃ、、、涼子ちゃんのほうはお前が上手く話しを聞いてやってくれ。
         想像だと、、、どちらもかなり重い告白話しになりそうだぞ」
しゅうはそう言い残すと、健一郎さんの待つ、談話室に戻っていった。
健一郎さんは椅子に座りながらこちらの様子を窺っていた。
私は彼に向かって頭をゆっくりと下げ、、、
重い告白話しを聞きに、涼子の待つ病室へと向かった。
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長い一日だった。
家に帰り着いたとき時計の針が11時をまもなく越えようとしていた。
帰りの車の中で、しゅうは何度もため息をついていた。
眉間にシワを寄せて、時折ハンドルを指で叩くのは彼が考え事をするときの癖だ。
こんな時に、間抜けな質問をするととたんに機嫌が悪くなる。
私は黙って助手席に座り、しゅうが話しかけてくるのを待っていたが、結局、、、2人の間に会話は無かった。 
  
  
岐阜から駆けつけたヒロのご両親は、竹内さんの言うとおり、
かなりの高齢で病院に着いたときにはすっかり疲れ果てた様子だった。
集中治療室から出てきた後で、しゅうと挨拶をしたのだが、 
     
私達とヒロとの関係をどのくらい理解できたのか疑問だ。
「社長さんにはいつもご迷惑ばかりお掛けしましてぇ、、、」
と何度も頭を下げるお母さんは、しゅうの事をヒロの会社の社長だと思いこんでいる様子だった。  
  
 
 
 
肉体的に一番ダメージを受けているのは間違いなくヒロだった。
命に別状は無いとはいえ、あれだけの火傷を負っているのだ。おそらく退院までにも時間がかかるだろう。
しかし、今夜に限って言えば精神的に一番辛いのは涼子だと思う。
彼女が自分の両親に 事実をどう伝えたのか分からないが、決して褒められるような事は無いはずで、
私が、家に帰る事を伝えに病室をのぞいたとき、ベッドにハルカちゃんを一緒に寝かせていたのは、
両親からの「攻撃」を避ける為だったに違いない。      
その後、、、ヒロの両親とも面会をしたはずで、その心中を察すると胸が痛む。
「涼子、、、大丈夫かなぁ」
残り物で簡単に作った夜食を食べながらつぶやいた。
「微妙な立場だなぁ。   
       
   ヒロが独身だったことで、立場的には半分被害者みたいな、、、中途半端なポジションだろ。
        とはいえ、自分には家庭があるんだから、健一郎さんに対しては加害者だ。
                            いずれにしても、こんどの事の代償は大きいよ。」
「夫の立場としては、、、やっぱり『離婚』とかを考えるのかしら?」
私はいつもニコニコ笑顔を見せている健一郎さんの顔を思い浮かべた。
あの彼が、、、離婚だ!!と涼子を怒鳴りつける様子がイメージ出来ない。   
    
「笑って許す夫は俺くらいだろうな。
   
      許すどころか、『良くやった!』って褒めるかもね」
     
しゅうはニコリともせず言った   
    
「止めてよ、、、」
「冗談はともかく、普通なら真っ先に離婚を考えるだろうなぁ。 まさに現行犯だからね」
「そりゃそうよね、、、」 
   
ひいきめに見ても、涼子に健一郎さんを説得できる「言い分」があるとは思えない。
もし離婚という事になれば、その原因を作ったのは私という事になるのだ。
やはり、、、それはやり切れない思いだった。
どちらかと言えば、おっとりした涼子、、、彼女一人で生きていくのは大変だろうなぁ、、と想像が出来た。
「離婚なんて事になったら、、、私、、、涼子にあわせる顔がないわ、、、」
しゅうはコップのビールを飲み干し、
 
「今さらそんな事を言ったってしょうがないだろう。現実に事は起こっちゃったんだからな」  
     
と言った。    
     
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺は、、、健一郎さんとはちゃんと話しが出来ると思うんだ。
       性格的に、、、そんなに感情的になる人じゃないと思う。
   俺とは考え方のスタンスも似ているからね。 まぁ、、、許してくれるとは思えないが
                                 2人をくっつけた俺が頭を下げてみるよ。」
「ゴメンね、、、」
「おいおい、、これはお前の責任じゃないぜ。 確かに2人は知り合ったきっかけは俺たちだけど、
    ヒロも涼子ちゃんも大人なんだ。 不倫という意味だって良くわかっているはずで、、、
                               自己責任なんだよ」   
    
自己責任、、、確かにそうかもしれないが、心情的にその言葉だけで片付けるのは難しい。   
   
「それはそうかも知れないけど、、、」
「まぁ、ここでいくら話しでも仕方ない事だよ。明日の朝、、、健一郎さんが帰ってきてから考えよう」    
   
しゅうが食器を持って立ち上がった。   
 
 
と、キッチンの手前で立ち止まって
「たださぁ、、、ちょっと気になる事があるんだよ。」
  
と言った。
「何?気になる事って?」
「涼子ちゃんがしきりに『ウチは大丈夫です!』って言っていただろう?
           あの時の彼女の口調、、、目つき、、、なんか気になるんだよなぁ」 
    
そう言えば、私が病室を後にするときの彼女の目の強さも、どこか腹をくくったような…そんな視線だった。   
  
「何が『大丈夫!』なんだろうね」
「う~ん、、、わかないが、俺たちのように何か人に言えない夫婦の事情があるような気がするんだ」   
    
しばらく空中に視線を泳がせていたしゅうだったが  
   
「ま、、、いくら考えても無駄だな。後は明日だ、、、 俺も朝一番で病院に行くからさ」 
  
しゅうはそう言い残すとキッチンを出て行った。
俺、、風呂に入っちゃうぞ~~~
しゅうの疲れた声が聞こえた。 
 
 
私がお風呂から出てベッドルームへ戻ったとき、しゅうは書斎でPCを見ながらお酒を飲んでいた。
気持ちが高ぶっていた私も、何か一杯飲みたかった。アルコールの力を借りなければ寝られそうにない。
「ウォッカもらっていい?」
「ん、、、いいよ。冷凍庫に入ってる」
書斎の冷蔵庫には、
ビールはもちろんの事、ミネラル、ソーダ、トニックウォーター、、、レモン、、、ライム、、、
しゅうが大好きなミックスナッツ、、、特にピスタチオは煎餅の空き缶にタップリと入っていて
    
寝酒には困らないだけのアルコールとおつまみが揃っていた。 
  
  
冷凍庫には2本、、、ウォッカの瓶が横になっていた。
私はグラスに氷を入れ、ウォッカをグラス三分の一ほど注ぎミネラルで割って、レモン汁を数滴たらす。   
   
「何見てるの?」
しゅうがネットで何かを検索しているのはすぐに分かった。
「火事の事、、、記事になってないかなぁ、、と思ってね」
「新聞に載ってた?」
「イヤ、、、新聞には載ってないな。 明日の朝刊の地元版になら載るかも知れないけどね」
「そう。 明日の朝、、、ヒロのマンションに行ってみようかな」
行ってどうなるモノでも無いが、2人を襲った災難がどの程度のモノだったか見ておきたいと思った。   
   
「止めておけよ。 ヒロの親戚とか会社の人間が来ているだろうし、、、 それに、、、見てみろ」
しゅうがPCの画面を指さした。
「なに?」
「2ちゃんねる、、、知ってるだろ?巨大な掲示板だ。地元の情報もすぐにこうして集まってくる」   
  
2ちゃんねる。
聞いたことはあるが、見たことはない。   
    
「あの、、、この前、何かの事件で犯罪予告が書かれていた掲示板の事でしょ?」
「そうだ。 で、、、これは地元掲示板っていうジャンルだが、、、火事の事がもう載っているよ」
「ヒロのマンションの火事の事?」
「うん、、、ヒロのマンションがある街のスレッドの中だけど、、、えっと、、、このあたりからかな」 
     
画面がスクロールされる。
「ここからだ。」
「かなり詳細だぞ。 もちろん、、、噂話の域はでないし、みんな無責任に書き込んでいるけどね」 
    
しゅうが指さしたところの書き込みを読んでみる。   
   
>消防車のサイレンが聞こえるけど、、、詳細求む。
>どうやら、○△町のマンション 
   
まったく関係のない書き込みの合間に火事の情報がポツポツと入ってくる。   
  
>ウチの近所。 消防車がたくさん来てる。
書き込みの時間を見ると、かなりリアルタイムな情報のようだった。
やがて、、、ドキッとする書き込みが目に飛び込んできた。   
    
>女と男が裸で逃げ出して来たらしい。
>昼間なのに? って事は真っ最中だったのかな(藁)
>どうやら、不倫関係との噂。 
>火遊びで火事!? ドラマだね。詳細きぼんぬ
 
書き込みの内容もさることながら、火事からまだ一日も経っていないというのに、
これだけの「噂」が一人歩きしているという事実に恐怖を覚えた。
朝になったら、、、どれほどの情報が集まってくるというのか?
見られているんだ。  
   
芸能人や有名人だけじゃなく、、、一般人も、、、何か事があると好奇の目に曝されるんだ。
「怖いね」
「だな、、、」
カラン、、、グラスの氷がとけて、乾いた音を立てた。   
   
「涼子ちゃんがほぼ全裸で逃げ出したって事で、単なる火事が『ドラマ』になっちまった。
   ここは匿名で無責任に発言が出来るからなぁ、、、明日になると噂に尾ヒレがついて
      好き勝手な事を書かれるかも知れない。 しかし、、、その噂に蓋をすることは出来ないんだ」
「健一郎さんや、ハルカちゃんには見せたくないわね」
「うん。しかし、、、ネットは全国何処でも見ることが出来るからなぁ、、、」   
    
当事者にとってみれば、こんなに迷惑な事は無いだろう。
しかし、、、第三者としては確かに「面白い事件」に違いない。
私だって、これが涼子とヒロの事でなければ、野次馬根性丸出しで詳細を知りたいと思うかも知れない。 
      
「ここでいくら気を揉んでもなんの得にもならん。もう寝よう」
しゅうはPCの電源を切った。
私はそのまま椅子に座って、舐めるようにウォッカを飲んだ。
涼子は、、、どんな思いで夜を過ごしているのだろうか?
ヒロは、、、痛みに耐えながら、集中治療室のベッドで眠っているのだろうか?
岐阜からやってきた彼の両親は?
あの、誠実の固まりのような竹内さんは?
そして、、、涼子の夫、、、健一郎さんは?   
  
   
それぞれがやり切れない思いを抱えて眠れぬ夜を過ごしているはずで、、、
私もしゅうの横に潜り込んだモノの、なかなか寝付くことは出来なかった。
せめてもの救いは、、、微かな寝息を立てて寝入っているしゅうの存在だった。
しゅうが眠りについたと言うことは、、、何か、彼なりの対応策を考えているに違いない。
そう思ったからだ。
 
 
 
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風が強く吹くこの時期…
排気ガスも埃も花粉も、、、すべてが吹き飛ばされ
東京の空にも美しい「青」が戻ってきました。
sky1
心が洗われる、、、 まさにそんな表現がピッタリ。
子供達が居なかったので、
2人で豪華なランチを 某ホテルで♪
sky2r
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涼子は処置室から一般病棟へと移っていた。
病院のほうも、、、これからたくさんの人がやって来るという事を考慮したのか、
涼子は個室に入っていた。  
  
 
「消防の人から連絡があって、、、これから事情を聞きに来るって、、、イヤだな、、、」
「そう。でも、、、仕方ないわね。 部屋の中はほぼ全焼だっていうじゃない?」
「お母さんもそろそろ到着するし、、、イヤだなぁ、、、もう逃げ出したいわ」  
  
 
シーツで顔を覆っている涼子の表情は見えないが、震える声からして目には涙が浮かんでいるに違いなかった。
  
    
「涼子、、、他の人が来る前に言っておくことがあるの。
     ねぇ、、、、、ヒロ君の事なんだけど、、、
         会社の竹内さんから聞いたんだけどね、、、ヒロ君、、、実は独身だったんだって
   
                 あなた、、、知ってた?」
「え!?」 
   
大きな声と同時にシーツがまくられて、涙で目を腫らした涼子が顔を出した。  
    
 
「独身!?って、、、誰が? ヒロ君が???」
「やっぱり知らなかったのね。  
   
       以前、結婚はしていたらしいんだけど、東京に来る前に離婚したらしいの」
「離婚!? だって、、、奥さんの話しとか娘さんの話しとか、、、よくしてたのに」
「私だって驚いた、、、結婚生活は上手くいっているような事言ってたもの」
     
「独身、、、どうして!? どうして隠してたんだろう?」
   
涼子はそうつぶやくと、ベッドの上に視線を落とした。
  
「そうなんだ、、、独身だったんだ、、、  
   
            あ、、、で、その別れた奥さん、こっちに来るのかしら?」 
 
    
 
やはり、涼子にとっても一番気になるところだろう。   
    
こういう場合、、、と言っても、幸いにそんな修羅場を経験した事はないけれど、、、
相手の奥さんが一番手強いはずで、
「この泥棒猫!」  
    
とか怒鳴りながら相手の女性に平手打ちを食らわせそうな状況だ。
ヒロが独身という事であれば、かりに彼女が居たとしても立場的にはその彼女も涼子も同等という事になる。 
   
もちろん、、、涼子が既婚者である以上、世間的には弱い立場ではあるが、、、 
  
 
「奥さんも子供さんも来ないってさ。火事の事も連絡してないらしいわ」
「そう、、、」
安堵の表情では無かったが、さっきまで逃げ出したい!と言っていた涼子とは明らかに違う。
「少しは気が楽になった?」
「うん、、、ひどい言い方かも知れないけど、、、こうなってしまったら独身で良かったわ。
     昨日までは、ヒロ君が単身赴任の既婚者って言うことで、ある意味気楽だったのにね。
         まったく、、、勝手な女だわよね、、、私って」
「勝手なのはあんただけじゃないわよ。人間なんて、、、所詮みんな自分勝手なんだから」
「ねぇ、、、なんで彼は『独身』って事を隠していたのかしら?」
それは私も疑問に思っていた。
既婚を独身と偽って女をだました、、、そんな事件や噂は良く聞くが、逆のパターンは珍しいように思えた。
「分からないわ、、、直接彼に聞きたいところだけど、当分は無理よね」
「・・・・・・・・・・」
「もし、、、彼が独身だと知っていたら、付き合った? こういう関係にならなかった?」
ベッドの涼子に質問をしたのだが、同時に自分にも問いかけてみた。
どうかしら、、、
でも、私の場合は、独身のほうが良いかなぁ、、、やっぱり。  
   
いくら単身赴任でお気楽な身分とはいえ、やはり奥さんの陰はちらつく。
私達の場合は交際そのものが「約束事」の上に成り立っているのだから、例えば、ヒロから求婚されたり、
逆に私がしゅうと別れてヒロと一緒になるなんて事はあり得ない。
であれば、しがらみの無い独身のほうが気楽といえば気楽だ。   
    
「そんな事考えても見なかったけど、、、もし彼が独身だったら、、、  
    
                       どこかで距離を置く必要があったかも知れない」  
  
「ずるい話しだけど、ヒロ君にも家庭があったと思っていたから、、、 
    
      これ以上踏み入ってはいけないラインがあって、
              だから単純にセックスフレンドとして楽しめたけど、、、  
   
                    独身だったら、、、やっぱり警戒心はあったかもね」
セックスフレンド、、、という言葉に少しドキッとした。
私にとっても彼はセックスフレンドだったから、、、
「警戒心?」
「そう、、、本気になられたら色々とやっかいじゃない?」
あぁ、、なるほど、、、そういう意味か、、、
確かに、火遊びの相手が本気になってしまったら、収拾がつかなくなりそうで怖い。
ストーカー、つきまとい、、、無言電話、、、嫌がらせ、、、
そんなマイナスなイメージがつきまとう。
「あ、、、でも、今の私にはあんまり関係ないかぁ、、、もしヒロ君が私に『マジ』になってくれたら、、、
                    それはそれで嬉しいわ」
「今の私って、、、? どういう事?」
どこか投げやりな涼子の口調が気になった。
コンコン、、、 
    
扉がノックされた。
「はい」
涼子が緊張の面持ちで返事をする。
顔を出したのはしゅうだった。
「あ、、、消防署の方がお見えだよ、、、それと、、、ご両親とハルカちゃんも今着いたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
涼子の顔が強張っている。
「涼子、、、私は行くわよ。」
「え!? ラン、、、帰っちゃうの?」
「まだ帰らないけど、、、」
私は廊下でこちらの様子を窺っているしゅうの表情を見た。
軽く頷いたのは、、、早く 病室を出なさい!という意味のようだ
「下に居るから、、、黙って帰ったりしないから安心して」
「うん、、、ありがとう」
私は涼子の腕を励ますように軽く握ると、病室を出た。
廊下には制服を着た消防署員が数名立っていた。
軽く会釈をする。
私と入れ替わりに彼等は病室に入っていった
「失礼します」
涼子の両親とハルカちゃんは病棟の待合室に座っていた。
私は当たり前の言葉で3人を慰めた。
今にも泣き出しそうな、ハルカちゃんの頭を撫でて、、、
「お母さんは元気だからね。大丈夫だよ。」
そう伝えるのが精一杯だった。
年老いた涼子の両親はいつまでも頭を下げて
申し訳ありません、、、を繰り返した。
謝らなくてはいけないのは私の方なのに、、、 
      
私がヒロを涼子に紹介しなければこんな事にはならなかったのに・・・
違うんです!元はと言えば、私が悪いんです!  
宇佐見さんは私の愛人だったんです!
それを、、、それを涼子に押しつけたんです!
3人の姿を見て、、、思わずそう叫びたくなった。
ご両親に負けないくらいに頭を下げている私の背中をしゅうが突きながら言った。
「あの、、、私達は下の談話室にしばらくおりますので、、
   
     何か困ったことがありましたら遠慮無くおっしゃって下さい」
私はしゅうに手を引かれるまま後ろ髪を引かれる思いで病棟を後にした。
エレベーターに乗るなり
「つまらん正義心はしまっておけよ。真実がいつも正しいとは限らないんだぞ。
      真実を話すことで、自分が楽になるのと引き替えに、人を傷つけることもあるんだ。」
しゅうの冷静な分析は残酷だ。
あなたはそうやって自分の感情をコントロールしているのね。 
    
今夜のあなたの対応も冷静だった。
    
状況を客観的に分析して、その場で一番良いと思われる答えを出している。
    
「俯瞰でモノを見てはじめてすべてを把握する事ができる。」
  
あなたはいつもそう言っている。    
   
私にはその視線が冷たく感じられる事もあるわ。
そう言う冷静な視線を持っているからこそ
     
例え「遊び」とはいえ、私が他の男性に抱かれても、、、一夜を一緒に過ごしても、平然としていられるのね。  
    
    
ヒロと初めて寝た夜も、あなたは特に興奮するでもなく、、、時折笑顔を見せながら私の報告を聞いていた。
絶対に怒らない、、、と言うのがこの交際を始めたときに私が出した条件だった。   
   
だけど、時には不機嫌な顔を見せて欲しいわ。
時には、嫉妬心でゆがんだ顔を見せて欲しい。 
     
私の腕を握っていたしゅうの手を取って、、、強く握り替えした。
北海道は今年最大の寒波で各地が大雪に見舞われていた。
空港はすべて閉鎖され、空のダイヤは大幅に乱れた。
その夜、涼子の夫、、、健一郎さんは結局、帰京する事が出来なかった。
翌朝、天候が回復したらすぐに帰るとの連絡が病院に届いた。
東京駅に着いたヒロの両親を迎えに、竹内さんが病院を後にした。
談話室には私としゅうの2人だけ、、、
しゅうが大きく息を吐いた。   
     
「どうする?」
「どうするって?」
「このままここに居て、、、ヒロの両親にも会うのか?」
「どう思う?」
「分からないなぁ、、、奥さんが居ない、、、ヒロが独身って聞いてなんだか気が抜けちゃったよ」
「やっぱり、、、」
「まぁ、今までの状況を考えたら、会わずに帰るって訳にもいくまい。
    少なくとも、俺は会って挨拶をしておいたほうが良いと思う。
           ランは、、、しばらく涼子ちゃんに着いていてやったらどうだ?
                 健一郎さんも今夜は帰ってこないんだし、、、  
    
                         彼女にとっての修羅場は明日かも知れないからな」
「うん、、、」
背中にドシリッと重い荷物を背負わされたような感じがした。
 
 
 
 
涼子の夫、、、健一郎さん。
     
妻の不倫が白日の下にさらされたのだ。  
   
     
「妻を寝取られた夫」     
  
       
周囲は好奇の目で彼を見るのだろうか?それとも、、、同情の目を向けるのだろうか?
    
いずれにしても、東京からはるかに遠い「札幌」の地で
  
眠れぬ夜を過ごしているに違いない。
          
 
 
やはり、、、不倫の代償は安くはない。 
 
 
 
 
 
 
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「ウチの社員の中にもやたらと携帯で指示を仰ぐヤツが多い。
    例えば、、、 明日の材料が足りないの、ビールが無くなったの、、、レジの金が合わないのと
                閉店後に自分で判断が出来ずに電話をかけてくるんだ。」
「ふ~ん、、、」
ウンウンと頷きながら話しを聞く。でも、、、頭の中は
今日はどれから手をつけようか、、、 「中トロ」 も良いけど、、、「タコ」も良いわね。
しゅうの携帯嫌いは良く知っている。だから、ヘンに反論はしない。 話しが長引くだけだ。
「これは携帯電話の弊害だな。 携帯があるからいつでも連絡を取ることが出来る、、、だから依存しちゃうんだ。
    以前ならば、仕入れ先と連絡が取れるウチに翌日の準備は済ませておいた。
        レジだって、暇な時に中締めをしたり、、、 そうやって段取り良く仕事をしていたモノだよ。」
「ウニ」の瑞々しさに目を奪われつつ、お楽しみは後に、、、
   
で、自宅では味わえないお寿司屋さんの「卵焼き」に箸を付ける。
「電話っていうのは昔は家族共有のモノだった。 でも、今は個人のモノだろ?
    ウチの子供達だって、『俺の携帯』っていう観念しか持っていない。 だから、その携帯に
      いつ、誰から掛かってこようが、俺たち親には関係無いし、知る権利もない。」
「そうね、、、」
光りモノはあまり好きじゃないが、ここの「コハダ」はなかなか美味しい。
口の中がさっぱりしたところで、脂ののった「ハマチ」に箸をつけた。
    
「夜中の2時だろうが3時だろうがお構いなく電話をかけてくるだろ?
    あれはおかしいよ。 昔は夜中の電話と言えば「オヤジが危篤だ」とか「ばあちゃんが死んだ」とか
       悪い知らせと相場は決まっていただろ?」
「そうね、、、今でもたまに 夜中に電話が鳴るとドキッとするもん、、、『誰かに不幸!?』って」
「夜、夜中に仕事をしている人がいるから、電話だって使うことはあるだろうし、必要だとも思うよ。
  しかし、そこには暗黙のルールがあるんだよ。それは、、、携帯電話の使用方法という意味ではなくて
     人としての、、、社会の中のルールなんだな。
        それに、、、昼夜問わず、出来るだけ携帯電話なんて使わないほうが良いに決まっているんだ。
     あれに頼っていると人間ばバカになる。」
ビールが入ったせいか、しゅうはいつにも増して饒舌だった。
ご飯の上に「イクラ」を乗せて食べる。
プチプチっとした歯触りを期待したが、、、この時期のイクラにそれを望むのは酷かも知れない。
少々生臭いイクラはあまり美味しくなかった。
「でも、子供達が携帯を持つようになってから、ヘンな心配をしなくて良くなったことは事実よ」
「ヘンな心配?」
「そう、、、ウチの子ども達はもう大きいから関係ないけど、例えば生徒の女の子、、、
   この時期は5時でも真っ暗でしょ? レッスンの時間になっても来なかったりすると心配になるじゃない?
   夏は夏で、、、痴漢とか、ストーカーとかも多いし、そんなときに携帯で連絡を取れるとやっぱり安心よ」
「否定はしないけどね。地域の子供達を大人が守れない社会に問題ありだな。
  
                                 地域社会の崩壊・怠慢が招いた結果だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
この手の話しになったら黙って聞いているのが一番良い。
食事時に、、、とも思うが、むしろ「好都合」でもある。
これが夜、寝室ではじまろうモノなら、睡魔と戦いながらしゅうの話しを聞かなくてはならない。  
  
 
「だいたい、なんだ!? あのコマーシャル!?」
そう言うと、、、
カラのビール瓶を指さしながら、カウンター越しに
悪いけど、、、ビール、、、もう一本もらえるかな? と声をかけた
「へい! こちらさん、ビールね!」
威勢の良い声が店内に響いた。
ビールのお代わりをするのに何もそんなに遜らなくても、、と思うのだが、しゅうの理屈では
寿司屋で酒をガブガブ飲むのはあまり好ましい事じゃない、らしい。
握られた寿司は、時間を置かずにすぐ食べるのが、板前さんへの礼儀だと言う。
酒ばかりのんでゲタの上にいつまでも寿司が置かれていてはせっかくのネタが乾いてしまって美味しくなくなる。
だから、握ってもらったらすぐに食べた方がいい。
これも、携帯電話ルールならぬ、寿司屋ルールなのか?
「シャリだの、ムラサキだの、アガリだの、、、通ぶって使わないほうが良いんだ。
   アレは、寿司屋さんの隠語なんだからね。 ご飯・醤油・お茶って普通に言えば良いんだよ」
いつだったか、子供達と寿司屋に行ってカウンターに座った。
お会計を考えたら、ゾッとしたのだが、、、 しゅうは子供達にも寿司屋のマナーを教えたかったようだった。
トロばかり注文する子供達に、
「トロって言うのは、店の看板でもあるんだ。みんなが好きなネタだからな。 
   
    お店では少しでも大勢の人に食べてもらいたいと思う。
  
         だから値段も控えめで、意外と儲からないネタでもある。  
   
              それを「お稲荷さん」のようにガツガツ食べちゃ駄目だ。」
そんな事を教えながら食べていたっけ、、、、
「寿司にも、蕎麦にも、天ぷらにも、、、スマートな食べ方があるんだ。
   もちろん食べ方マニュアルなんて無粋なモンはないが、聞けば、なるほど、、、と納得する。
     それは、作ってくれる板前さんや他のお客さんや、、、 
   
       何より食材にたいして気を配っている、感謝している。
             その気持ちを表すための、まぁ決め事のようなモンだ。 
   
          本質を理解できれば、その応用は社会でも、もちろん学校でも通用する。」 
   
「ホタテ」は適度な弾力が、ネタの新鮮さを物語っていた。
口の中に甘みが広がる。
次に私は適度に脂がのった「中トロ」に手を伸ばしながら、その時のしゅうの言葉を思い出していた。 
   
最近の携帯電話は「無粋」だ。 「遠慮」というモノもない。
昼夜を問わず送られてくる迷惑メールはもちろんの事、夜遅い時間でも、場合によっては夜中であっても
いきなり着信音を響かせてプライベートな時間を寸断するのだ。
「夜中使用禁止」というルールがある訳じゃないが、
 
少なくとも「大人」であれば時計を見ながら発信ボタンを押すか押さないかを決めてもらいたい。
やはり「中トロ」は美味しかった。 もちろん「大トロ」にも魅力を感じるが、
魚の旨みという意味では、適度な脂を持つ「中トロ」のほうが美味しいと思う。
脂ぎった若い男性とのセックスも良いけど、、、
ツボを心得た経験豊富な男性とのセックスのほうが安心して身を任せられるわぁ、、、
金を払って食うのだから、どう食おうと俺の勝手だ! と、、
寿司屋のカウンターでお銚子を何本も並べて、隣に座らせた同伴ホステスのほうに体を向け、
大声でしゃべり、下品な笑い声を上げる。
そんな良識の無い人には この「中トロ」を味わって欲しくない。
「だからさ、、、あのコマーシャルだよ!」
いつの間に頼んだのか、しゅうはカッパ巻きを口に放り込みながら私に話しかけたきた。
「え? どのコマーシャル?」
「携帯電話のさ、、、子供達に持たせる携帯のCMだよ」
「あぁ、、、、 何処にいるか分かって安心とか言って、小さい子に持たせる携帯のCMね」
「そうそう、、、 ホンワカしたBGMかなんか流しちゃってさ。」
「でも、携帯電話の有効な使い方だと思うけどな」
私がちらし寿司を食べると、ネタとご飯の残り方のバランスが悪くなる。
おおかたのネタが無くなっているのに、ご飯は半分以上残ってしまうのだ。
お腹のほうは満腹に近づいていたが、やはり「ウニ」はご飯と一緒に頂きたい。
口に広がるこの甘み、、、 
やっぱり、、、美味しいわよね~~。
私は満足感を覚えながら、
  
あのトゲトゲの不気味な生き物を食する事に挑戦した先人の勇気に感謝した。
「それは認める。物騒な世の中だからね、、、 
    
       何処に子供がいるかサーチすることが出来る携帯を持っていれば安心だし
    犯罪の抑止効果にも繋がるだろう。 でもね、、、
   あのサービスだって有料なんだ。  
    
        しかも、、、サーチ機能はオプションの別途料金。一回につき5円かかる。 
                    使用料金は基本料も含め大人の持つ携帯と同じ料金を取る。
カッパ巻きを平らげたしゅうは烏賊の握りを注文した。
「安全は金で買う時代とは言うけれど、 
     
       基本料とあわせて、、、5000円以上は覚悟しなくてはならないだろ?
                       普通の家庭にとってはそれなりの負担だと思うよ。  
    
    イヤ、、俺は金を取ることが駄目だと言っているんじゃない。
        でも、社会の歪みの中で起こっている子供達への犯罪を抑止して、 
   
     被害者を一人でも減らそうという趣旨なんだから、無料にしろとは言わないが、 
    
      せめて半額とか、、、そのくらいの企業努力はして欲しいし、国だって援助金を出すとか、、ね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
もっともだと思った。
我が家の携帯電話の使用料金、、、しゅうの携帯は会社で支払っているが、
2人の子供達と私の携帯で月額3万円を超える金額を払っている。
「携帯の契約数はもう劇的に増える事はない。ほとんどの学生、成人が持っているからね。
  残るターゲットはお年寄りと幼い子供達って事になる。
    安心ケータイなどと銘打ってはいるが、結局は契約数を伸ばす為の戦略に過ぎない。」
お腹は満腹になっていた。
ご飯は、、、やっぱり全部は食べられずに残っている。
その様子を見ていたしゅうが私の前の桶に箸を伸ばしてすし飯だけを食べていた。
「小学生低学年の子供達が携帯を持って、、、メールをして、、、写メールを使い、、、
            サイトに接続して着メロをダウンロードする。 公園で走り回るんじゃなくて
                         ベンチで携帯とゲーム機に熱中し、好きなテレビを見る。
大学生のカップルは、、、お茶を飲みながら各々の携帯でメールをし、お互いに話しをすることもない。  
   
                        電車から降りてきた人が一斉に携帯チェックをするさまは異様だ。
社会人もスケジュール管理から住所録、、すべては携帯の中。
   
    リアルタイムで連絡が取れるから、『準備』をしなくなる。だから、いざという時一人で対処できない。
レストランの予約、映画のチケット、飛行機の手配、、、最近では買い物の支払いまで携帯で出来るんだ。
  後、10年もすると、、、  
   
        字が書けない、計算が出来ない、段取りが出来ない、そんな人間ばかりになるな」
今の子供達をみていると、、、すでにその兆候は現れているかも知れない。
「携帯に限らず、、、現代人は便利な道具に振り回されている。
   通勤、仕事、、、すべての移動に車を使って歩くことをしないのに、週末は高い金を払って
      ジムでランニングマシーンの上で運動不足解消にただただ歩く。
   脳の老化を防ぐ為に、、、またまたゲーム機が売れる。 
                 あんなのをやるくらいなら、読書をしたほうがよっぽどましだ」   
       
本を読まない子供達は多い。もっとも、、、電車の中でコミックを読んでいるサラリーマンが多いご時世だ。
   
子供達に「マンガよりも本を読みなさい!」と言ったところで説得力は乏しい。 
     
  
「道具っていうのは、使うモノであって、使われちゃ駄目なんだよ」
すし飯はおおかたしゅうの胃袋におさまった。  
     
「ちょっと食い過ぎたなぁ、、、」 
   
そう言うと、コップに残っていたビールを飲み干して、店内を見渡した。
「混んできたな、、、 外にも待ってる人がいるみたいだし、、、そろそろ行くか」
私は熱いお茶も頂いて、しゅうの話しが終わるのを待つだけになっていた。
「そうね、、、お茶はいいの?」
「うん、、、もうお茶も飲めない」
    
2本のビールで少し顔が赤いしゅうは、それでも足取りはしっかりとレジへと向かった。  
 
寿司が好きなくせにあまりたくさん食べないしゅう。
  
曰く、、、
   
「マグロだって、ブリだって、、、タコだって、、、乱獲で量が少なくなってる。
   
       そもそも寿司なんてモノは腹一杯食べるモンじゃない。
   
                最高のネタと、最高に旨い米を味わうモンだよ。」
   
この人は徹底してアナログ人間なのかも知れない。  
      
   
でも、、、私は、、、、、そんなしゅうが好きよ♪ 
 
支払いを済ませている時、、、私のバッグの中の携帯が振動した。
ほんの数秒振動して止まったという事は、、、誰かからメールが届いたに違いなかった。
携帯を取りだそうと思ったが、あの話しの後ではさすがに気が引けた。
「お手洗いに行ってくるね」
そうしゅうに告げると、私はトイレに向かう。
個室で携帯をチェックした。
メールは次男からだった。
「昼飯は?」
まったく!! 昼ご飯くらい自分で作りなさいよ!  
   
インスタントラーメンでも、レトルトカレーでも、、、小学生じゃないんだから!
「まだ帰れないから、自分で作って食べて」
そう返信を打って個室を出た。
昼時という事もあって、トイレは混んでいた。
手を洗って、、、口紅を引き直し、、トイレを出ると5~6人の行列が出来ている。
多くの女性が携帯を片手に持って、画面をのぞき込んでいた。
メールのチェック!?
ねぇ、、、だらからメールが来るの?
大切なメール?
しゅうならずとも、、、その光景は異様に思えた。
「道具は使うモノで使われちゃ駄目だ」 
   
納得ね。
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