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「勘違い?」
しゅうが顔を上げて私の視線と対峙した。
「そう、勘違い」 
  
私は努めて冷静な声を出した。
本音は、、、大声で怒鳴りたかったのだと思う。
或いは、冷静に受け答えをはじめたしゅうの頬を思いっきり張りたかったのかも知れない。
しかし、心のどこかで
ラン!冷静にね!
そう囁く自分がいた。
いや、あれは祥子の声だったのかも知れない。
あの晩、別れ際に   
   
「いい、今日はおとなしく寝るのよ。
      しゅうちゃんともめちゃ駄目よ。 
女はどうしても思いこみが激しいんだから冷静になる時間が必要なんだよ」 
   
そう諭してくれた、彼女の言葉が私を冷静にさせてくれたのかも知れない。
もしあそこで私が逆上していたら、、、 いったいどうなっていたのだろうか?
「私は貴男のように、『浮気』を公認したつもりも、するつもりも無いわよ」
「分かっている」
「どんなに勝手だと思われても、私がOKだから、貴男もOKにするつもりも無い」
「もちろん、、承知しているよ」
「じゃぁ、、、なんでそんなに平然としていられるのよ?
   まるで、『何か悪いことしたかな?』って顔しているじゃないの」
冷静は装っていたが、気持ちを言葉にするうちに
フツフツと沸き上がってくる感情のせいか、
自分の声が上ずってくるのが分かった。
「そんな事はない、、、だから、、言葉は足らないかも知れないが、
   今の俺は『スマン』と謝るしかない。 悪いのは俺だよ」
しゅうは椅子に座ったまま頭を下げた。
「どういう関係?」
冷静にね!
口のなかがカラカラに乾いていた。 滑舌が悪いのは舌先が歯に引っかかるからか?
「どういう?」
「そう、、、どういう関係? 
    愛人?セフレ?それとも恋人?
   『ガールフレンド』なんて、子供みたいな言葉は使わないで欲しいわ!」 
  
「お互いに既婚者なんだ、恋人にはなれないだろ。 恋心は無いよ。
   まぁ、愛人、、、という事だろうな。」  
    
「割り切った関係っていうわけね」
月に幾らか決まった『お手当』でも渡しているのなら気が楽だと思った。
朋美という女性はお金が介在しているからしゅうと寝る。 その方が良い。
そう言う事でしょ? 
夫と別居中でお金が必要なオンナなんでしょ?
「そうだ」
と、しゅうに言って欲しかったが、
「割り切った関係、、、じゃない。 
    金を渡したりはしていないよ。 もちろん、食事代を割り勘にはしないけどね」    
  
「割り切った関係じゃない!? 
  それって、少なくとも私にとっては、最悪の答えだわ!
     割り切れないって事は、『本気だよ』って言っているのと同じよ!」
頭の中が沸騰していた。
「だから、違うよ。 お前だって分かるだろ?
    割り切った関係じゃないけれど、愛や恋と言った感情は介入していない。
      でも、遊びとしての感情移入はある、、、 」
やはりしゅうは、私の「愛人達」との交際を引き合いに出してきた。
それは、ある意味で仕方の無いことかも知れなかったが、 
     
約束が違う!それを言わないっていう事になっていたでしょ!?
と口から出かかった所で、私はゴクリとその言葉を飲み込んだ。
なぎさ・・・
その時、なぎさの事が私の頭の中をよぎったのだ。
そう、、、なぎさとの関係はしゅうには秘密になっている。
私の中での解釈では、
「しゅうは、もう知っている。 なぎさの事まで知っているかは分からないけれど、
    私に、しゅうの知らないボーイフレンドが居ること、関係があることは知っている」
ちろん、そう思うにはそれなりの理由がある。
しゅう公認で何人かの男性と関係を持った後で、彼が私にこういった事がある。
「公認、、、公認って言うけれど、最近のランのように
    まったく罪悪感がなくなってしまうと、『公認』のほうが罪深いかもな。
  多少でも俺に対して後ろめたい気分を感じる未公認、つまり
            俺に秘密の愛人が居てもいいんじゃないか?」
また、変な事を言いはじめたわね、、、
そうも思ったけれど、当時の私は、しゅうの言うように、夫以外の男性と関係を持つことに
まったくと言っていいほど罪悪感を感じなくなっていたのは事実だった。
だから、なぎさやリキと付き合いはじめた時、しゅうの言葉は恰好の言い訳となっていた。
問題は公認、未公認じゃない、、、
要は心の問題よ。
相手が誰であろうが、私のしゅうに対する気持ちが変わることは決してない。
何とも、自分勝手な解釈ではあるが、少なくとも、その時はそれで良いと思っていた。
しかし、しゅうにも愛人が居ると分かったときに、
なぎさの存在が私の中で大きくクローズアップされてきた。
「お互い様じゃないの、、、」
どこかでそう囁く、もう一人の私がいた。
  
煮えたぎる脳ミソの中でも、どこかの一画が冷静になっていたのかも知れない。 
     
感情的になってはダメよ、、、ラン!
下手な事を言うと、しゅうの反撃を食らうことになるわよ!
なぎさとの関係が深くなっても、しゅうに対する気持ちの変化は全くない!と断言できる。
その他、しゅう公認の愛人達と大きな違いは無い。
ただ、しゅうの目の届かない所で、アバンチュールを楽しむ事に、
公認にはない刺激があるのは間違いなかった。
私にもしゅうには知られたくない秘密があるのだ。
しゅうは、真っ直ぐに私を見ていた。
その目から、いつもの探るような視線は感じられない。
悪かった・・・ 
或いは、
まずいことをしてしまった・・・
或いは、
とんだ、ドジを踏んだなぁ
私には分からないが、少なくとも攻撃的な視線ではない。
冷たい時間が流れた。
やっぱり、私達夫婦は、まともじゃない。
あの時、、、言葉に詰まった私はそう思っていた。
夫公認の愛人がいる妻。
どう考えても、普通ではない夫婦関係。
夫の浮気が発覚して、修羅場となった夫婦の部屋。
本来ならば、金切り声を上げて、しゅうに掴みかかり、
「あの女と別れなさいよ!」
頬に平手打ちの一発も見舞って、泣きわめいてもいいはずだ。
或いは、冷静に
「別れないのなら、離婚ね!」
と詰め寄ってもいい。しかし、、、
愛人達のと関係が複雑に絡み合っていた私は、いくつかの秘密を持っていたこともあり
爆発寸前の感情が、破裂寸前のところで足踏みをしているのだった。
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