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何!? 
そこに居るのは誰?
書斎の入り口にたたずむしゅうを見た私の素直な感想だった。
強張った表情のしゅうがゆっくりと歩き出した。
こっちへ向かってくる。
私は無意識に数歩、後ずさりしてしまった。
白い体液、、、

に見えたものは当然体液であるはずはなく、白いビニールの紐のようなものだった。
改めて見れば何のことはない、、、
しゅうの耳にはイヤホンが差し込まれ
その先から伸びた白いコードはしゅうのシャツの胸ポケットに伸びていた。
そこには最近、買い換えた携帯電話が入っているはずだった。
ようやく機能を取り戻した私の耳に、イヤホンから漏れるロックの旋律が届いた。
しゅうはイヤホンで音楽を聴いていたのだ。
だから玄関が開いた音も私の声も彼の耳には届かなかった。
「10時に帰宅する。」
私の言葉に完全に警戒心を解いていたに違いない。
彼の性格からして、たとえ数分のトイレであっても
愛人へのラブレターを途中でほったらかして行くはずは無い。
しゅうがイヤホンを引き抜いた。
小さなスピーカーから聞き慣れた「曲」が堰を切ったように流れ出してきた。
しゅうが胸ポケットから携帯を取り出して小さなボタンを押した。
2人を静寂が包む。
時折、「カチカチ・・・」とノートパソコンのHDがリズムを刻むような音を立てていた。
トモミ
ともみ
朋美
その名前がHDの中に刻まれていく。
早く消去しなくちゃ!
保存される前に消去しなくちゃ!
     

先に口を開いたのはしゅうだった。
「すまん、、、」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」
唇が、、睫毛が、、震えているのが自分でも分かる。
「言い訳はしない。そこに書いてあることは事実だ。 すまん、、、」
そう言ってパソコンに視線を落とした。
さすがのしゅうも、決定的な証拠を目にしてしまった私を
得意の「口撃」で丸め込む事は無理だと思ったのか、
素直に頭を下げた。
  
もちろん、その時の私には謝罪の有無など問題じゃ無かった。
それよりも、「事実」が知りたかったのだ。
しゅうと「朋美」という女性がどういう関係なのか、を知りたかった。
全てを知ることで更に傷付くであろう事は経験から想像できたが、
知らずにはいられない。
「朋美って、、、誰?」

脳が勝手に動き始めていた。 そんな事を聞きたいとは思わなかったが、
勝手に口が動いた。 
誰?どこの誰?
そんな事を聞いてどうなるものでもないのに、相手の女性が気になった。
朋美って誰???


薄暗い機内の中だが、いくつかの光りの筋が天井から座席に向かって伸びてる。
眠りにつくことの出来ない人が、本を読んでいるのだろう。
私もバッグにしまってある単行本の事を思い出した。
どうせ眠れないのだから、本でも読もうかな。
読書灯をつけてページを開く、、、
あまり考えなくてもすむ、「短編集」をいくつか買ってきたのだが、
少し読むと、気づかないウチにページを繰る手が止まっている。
落ち着かない・・・
読書をするにも、「落ち着いた場所」が私には必要だった。
自宅のリビングで窓から入るお日様の光の中で、、、
ダイニングテーブルに温めたミルクの入ったマグを置いてページを開くとか、、、
そして、、、今日のような飛行機の中であっても、
隣にしゅうがいて寝息を立てて居てくれれば、それで充分落ち着けるのだ。
しかし、今日、隣に居るのは見ず知らずの女性。
私の左隣の席に寝ている彼女のことを嫌な訳じゃない。
成田を飛び立ってしばらくは、行き先やどこから来たかなど、当たり障りのない会話も交わした。
チャーミングな女性でむしろ好きなタイプだった。
でも、ほぼ密着した席ではあったが、私の左腕と彼女の右腕の間には踏み込むことの出来ない
「境界線」が存在している。 
境界線・・・
「朋美」と言う名前を見たとき、私は日本中の「ともみ」さんを嫌いになってしまった。
そして、近づいて来たしゅうにも、一種の「嫌悪感」を覚えた。
この人は、今日、、、私の知らない所で「朋美」という女性と寝た。
しゅうと私の間に、目には見えない境界線が引かれていた。
駄目!それ以上、こっちに来ないで!
「朋美、、、って誰なの?」
無言のしゅうに向かってもう一度問いかけて見た。
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