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まだ、折り返し地点かぁ、、、長いなぁ。
日本の航空会社と言うこともあって、乗客のほとんどは日本人だった。
「日本人のマナーが悪くなった」と良く聞くが、
暗い機内は静かで大きな声で喋る人も居ない。
聞こえるのはエンジンの音と時折後部座席から聞こえるヒソヒソ声の会話。
変化の無い時間はとてつもなく長く感じられる。 度々時計をのぞき込んでは、
さっきから、30分しか経ってないじゃないの。
長時間、同じ姿勢で座っていたために、痛み出した背中と腰。
その鈍痛と、あと5時間以上も付き合わなくてはならないと思うと、気が重くなってしまう。
退屈な時間を紛らわす話し相手もも居ない。
一人は辛い・・・・・
ずっと昔、大学生を卒業してしばらくたった頃、
憧れていた「一人旅」に挑戦したことがあった。
2泊3日で北陸まで出かけた。 飛行機を使わずに電車を利用したのだが、
やはり椅子に座りっぱなしの移動が一番辛かった思い出がある。
私は組んでいた足を真っ直ぐに伸ばして縮んでいた腰を伸ばしてみた。
狭い座席ではあったが、小柄な私はなんとか膝を伸ばすことが出来た。
幾分、鈍痛が和らいだ気がした。ブランケットを引き上げて再び目を閉じる。
間髪を入れず、脳裏に蘇るあの夜の出来事・・・
一瞬の躊躇いはあったが、私は鍵を開けて玄関に入った。
「ただいま」
緊張のせいか、声が擦れていた。
返事は無い。 
脱いだパンプスを下駄箱にしまった私はスリッパを履くとキッチンに向かいながら
もう一度
「ただいま」
今度は少し大きい声を出してみた。
リビングとキッチンの明かりはついている。 しゅうはそのどちらかにいるはずだ。
しばらく返事を待ったが、
「お帰り」という声は聞こえない。
よほど腹に据えかねる事が無いかぎり、挨拶に返事をしないという事は無い。
聞こえていない?
私は無人のキッチンを素通りしてリビングを覗いてみた。
やはり、そこにしゅうの姿は無い。
2階!?
キッチンに戻ってシンク廻りを確認する。
しゅうがキッチンを使った様子は無い。
夕食は済ませてきたのかしら?
その時、2階で物音がした。
パタン、、、
扉が閉まるような音が聞こえた。
しゅうが2階にいることは間違いない。
玄関にしゅうの革靴が脱いであった事を思い出した。
私は大きく息を吸って廊下に出ると階段を上がって2階へ向かった。
「ただいま・・・・」

寝室のドアを開けて3回目の帰宅の挨拶。
しかしそこにもしゅうの姿は無い。
寝室からしゅうの書斎へ続くドアが開け放たれている。
明かりはついていたが、テレビやステレオの音は聞こえない。
ざわざわ、、、
また胸が騒いだ。
私の心の中の水面が、落ち着いたと思った水面がまたもさざ波立った。
「しゅう?」

しゅうの書斎へ入る。
もちろんそこに彼の姿は無い。
トイレ?
バーカウンターの奥には主のいない机と背もたれの高い椅子。
机の上に投げ出された小さな手帳と、鍵の束。
誰も座っていない革製の椅子には、触ったわけでは無いが、、、確かにしゅうの体温が感じられた。
そこに彼が今まで座っていたのは間違いない。
開かれたノートパソコンの画面の明かりが
黒い革製の椅子の背もたれを微かに白く光らせている。
いつもの私なら、、、そのまま書斎を出て、寝室で着替えをはじめるところだ。
しかし、、、
ざわざわと心の中を吹き抜ける怪しげな風が、私の足をしゅうの椅子へと向けさせた。
心臓の鼓動が高まる。
あの時と一緒だ。
昼、、、目の前をしゅうの車が通りすぎる瞬間に感じた胸騒ぎ。
本能的にその胸騒ぎ、原因解明の鍵は、テーブルの上に置かれたパソコンにあると感じていた。
と、同時に、
見ない方がいい! 知らない方がいいのよ!
そう叫ぶ私も存在したが、
その声に耳を傾ける事は、その時の私には出来なかった。
再び襲ってくるあの不快感、嘔吐感を断ち切るには、原因を解明しなくては駄目だ。
ゴクリ・・・・・
私は呼吸を整えて、パソコンの画面に目を落とした。
そこには見慣れた「Outlook Express」のメール作成画面があった。
小さい文字が画面の半分くらいを埋めている。
混乱する意識の中だったが、私の網膜はその文字の羅列の中から
いくつかの文字を見つけ出していた。
「朋美」
「今日」
「セックス」
朋美、、、トモミ、、、ともみ、、、
今日、セックス、
目は文字を追っていてが、その意味の全てを理解するほど冷静ではなかった。
ただ、今日、しゅうが横浜で朋美という女性と会って、セックスをした事は理解できた。
それで充分だった。それ以上の事を知ってしまったら私は壊れてしまいそうだった。
「ヒッ!」
突然現れた人影に私は驚いて大きな声をあげた。
書斎の入り口にしゅうが立っていた。
驚いたような顔、、、
その耳からは白い体液のようなものが流れ出していた。
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