この記事の前編はこちら♪  

 

 

 


「誰?」
フリーズ状態から立ち直った私の脳が一番はじめに出した疑問だった。
助手席に座っていたのは誰?
考えてみればそれが一番重要だ。
横浜にしゅうが居ること自体、なんの不思議も無い。
なにしろ、自分のお店があるのだから、経営者としてお店に立ち寄る事があるのは当然だ。
横浜には、私の知らない知り合いだってたくさんいるに違いない。
仕事の関係で車に女性を乗せる事だってあるだろう。
そうよ、、、例えば、フラワーアレンジャーの涼子のように・・・
いいえ、、、もしかしたら、お店のスタッフかも知れないじゃない・・・
それが、虚しい「言い訳」であることは鈍感な私にも想像が付いた。
「今日、時間が出来たから昼にランチでも、、、」
そうしゅうは私の予定を聞いたときに、そう言ったのだ。
私達がランチをするときは、しゅうの事務所の近くか、銀座と相場は決まっている。
私とのランチの計画がお流れになったから、横浜のお店にやってきたとうい可能性はある。
が、、、その「言い訳」も私の気持ちを納得させる事は出来なかった。
なぜ? 
どうして、、、納得できないのだろう?
明確な答えは出ないが、
「女の勘」
そう言うくくり方はあまり好きじゃないが、そうとしか説明が出来なかった。
今朝から感じていた一連の「違和感」
ここ数日のやりとりから想像するに、
しゅうは、昼間のこの時間に万が一にも私と会う事を避けようとしていた。
何を根拠に!?と聞かれると答えに困るが、私にはそう感じられた。
しかし、しゅうの思惑通りに祥子は行動してくれなかった。
銀座行きが急遽、横浜行きに変更になった。 そして、、、私も予期せぬしゅうとの遭遇。 
しかも、しゅうの車の助手席には、私の知らない、おそらくは若い女性が乗っていた。
一瞬のうちに私の前を通り過ぎた車。
私には見慣れた形と色。そして、忘れようのないナンバー。
運転席に座っていたのは間違いなくしゅうで、着ていたジャケットも
今朝玄関で着ていたい物と同じだった。
春の日差しで、サイドウインドウが光って良くは見えなかったが、
助手席のセミロングの髪の女性と、柔らかな笑顔は私の視界に入っていた。 
誰?
いったい、、、誰?
少なくとも、、、私よりも若い。きっと綺麗な女(ひと)
誰?
「お待たせ」
祥子の明るい声で私は現実の世界に戻ってきた。
「あ、、、 平気、待ってないよ」
私はすっかり冷めてしまったカフェラテを一口飲んだ。
「そう? だって、30分以上待たせから気になってさぁ
「気にならなかったわよ。。。 それより、お仕事のほうはもう良いの?」
上手く笑顔が作れない。どうしても目が笑えない。
だから、まっすぐに祥子を見ることが出来なかった。
「ウン、納品するだけだからね。 すぐに帰るつもりだったんだけど、
    次のオーダーも貰ったから、ちょっと時間食っちゃったんだ・・・・けど・・・・」
そう言うと、怪訝そうな顔で私をのぞき込んだ。
「ラン、、、顔色悪いよ、大丈夫?」
粗雑なようでいて実は細やかな神経の持ち主。
大胆なデザインでありながら、細部まで丁寧な仕上がりにこだわっている、、、
彼女の作品をみるといつもそう思う。 そんな彼女の観察眼は確かだった。
「え? 私? 大丈夫よ」
大丈夫・・・ そう言いながら、私は小さくため息をついてしまった。
「そうかな、車の中からおかしかったぞ。 私の話にもうわの空だったし、なんかあったの?」
動揺していないワケは無かった。
強い胸焼けのような、不快感は祥子と話をしていても消えることは無かったし、
脈拍はさらに早くなり、その鼓動は不愉快な耳鳴りとなって私の脳ミソを叩いていた。
「ごめんね、、、そんなつもりは無かったけど、、、
            ちょっとお腹がすいちゃったかな」
バカな言い訳をした!
少し頭痛がするの、、、そう言おうと思ったのだが、つまらない心配をかけたくなかった私は
思わず、自分には不似合いな言い訳をしてしまった。
テーブル狭しと並べられたお皿には美味しそうな料理が盛られていた。
頑張って箸をつけるのだが、食べ物が喉を通っていかない。
一口食べては、休み、一口食べては、お茶を飲み、、、
そんな私の行動を祥子は黙って見ながら黙々と料理を平らげていく。
「あのさ、、、この歳になってさ、『困ったことがあるのなら私に何でも相談して~!』なんて
   女学生みたいな事は言わないけどね。 今日のアンタを見ていたら誰だって 
                                『おかしい、、』って思うよ」
「おかしい・・・? そんなに?」
「あぁ、、おかしいよ。 特に、スタバに居たときのアンタの顔は普通じゃなかった」
「・・・・・・・・・・・・・」
「心配しないで、、、何でもないから、と言われたって、あらそうなの。とは言えないわね」
ニンニクの効いた「青菜の炒め物」を食べ終わった彼女は
その店の名物料理、「豚のやわらか煮」に取りかかっていた。土鍋の中の豚肉は
飴色に輝いていて、鍋から立ちのぼる湯気が食欲をそそる香りを運んでいたが、、、
その日の私には、その香ばしい匂いにさえも胸が焼けるような思いだった。
「食べなさいよ。わざわざこれを食べに来たんだから」
そう言うと、小さな豚肉の塊をお皿に取って、その上からタップリと餡をかけた。
「元気でるわよ」
私の前にお皿を置く。
自分のお皿には私の倍はある大きな肉片。
フーフーと息を吹きかけて熱々の肉を冷まし、それでもまだ熱いのか、
「ハフハフ、、、」と唇をならしながら肉片を頬張る。
その旺盛な食欲に、驚きと少しばかりの「怒り」を覚える。
「ごめんね、、、心配かけちゃったね」
私は自分の前に置かれた取り皿の上の肉片を見ながらポツリと呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・」
祥子はしばらく箸を止めて、、、探るような視線を私に向けていたが、
「ま、、いいわ。 これ以上聞いたって仕方ないわね。
   アンタが、ベラベラと悩みを喋るような人じゃない事は私も良くしっているし。」
そう言うと、タップリと脂ののった豚肉を今度はチャーハンの上に乗せて豪快に食べ始めた。
あなた、それじゃ太るはずよ、、、
その食べっぷりが羨ましくさえ思える。
「何があったか知らないけど、いよいよ困ったら相談に乗るわよ。
  ただし! 年下の彼氏と別れた、、、なんてバカバカしい悩みは駄目だよ」
祥子は笑いながらそう言うと、箸を置いてしまった私を尻目に
たくさん残っている料理を平らげにかかった。
 
 
←続きは?と思ったらこちらもクリック♪ お願いします