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祥子はちょっと「粗雑」なイメージを受ける
言葉使いも、人によっては「馴れ馴れしい…」と感じる事もあるだろうし、
言い方もストレートで、この人、、、私に敵意を持っているの?とさえ思うことがある。
しかし、実際の彼女はとても「センシティブ」な人間だ。
でなければ、「ジュエリー・デザイナー」なんてやっていられないはずだ。
観察眼も優れていて、相手の口調や視線を見て話し方を変えたりしている。
とっつきは悪いかもしれないが、彼女と同じ空間にいるとやがてその優しさを感じることになる。
おそらく、祥子の目に、その日の私は 「いつもと違う」 そう見えたに違いなかった。
車が横浜に近づく頃には、祥子から話しかける事はなくなった。
ボンヤリと視線を外に向けている私を「ほっぽっておこう」と思ったのだろう。
確かに、その時の私は、それまで車中でどんな話しをしたかさえ良く覚えていなかった。
うわの空
私の気持ちは、朝、しゅうとの会話に戻っていた。
「どこに行くんだ?」
「帰りは何時頃?」
私達夫婦に会話は多い。
同年代の夫婦とは比べものにならないと思う。
とは言え、お互いにプライベートな部分で触れられたくない事については、
深く追求しないのが暗黙のルールにはなっている。
朝交わされた会話も特別 不思議、、、という事ではない。
根掘り葉掘り聞かれた訳じゃない。
むしろ、私が出かける時に普通に交わされる会話。
ただ、、、
何かが引っかかっていた。 
それは、以前にも何度か同じ質問をされていた事が一番の要因だが、
それだけじゃない気がしていた。
しゅうらしくない

そう、、、この思いに全ては集約されていた。
今までの彼らしくない。
「ランチに誘おうと思ってね」

そう言ったあの表情に偽りの影は感じられなかった。が、、、
行き先はともかく、今日、祥子と会うことは何度もしゅうに伝えてあった。
それを忘れる、、、という事が私に信じられないのだ。
手帳に細かく予定を書き込んでスケジュール管理をする人ではないが、
良く忘れないモノね!? と思うほど、その記憶力は優れている。
ちょっと前も、朝、食事を取ろうとしたら、
「おい!お前、、、メシ食って良いのか?」
といきなり怒られた。
「えっ!?」
その意味が分からずに、私はマグカップを持ったまま固まってしまった。
なんで? 食べちゃ駄目なの?

「健康診断だろ? 朝メシは抜いてこい、って言われただろう」
そう言われ、カレンダーを見てようやく思い出したのだった。
その日は主婦検診の日だった。
確かに、「朝ご飯は食べないで、、、」等々、いくつかの注意事項を受けていた。
「忘れてた…」
「バカ」

しゅうに健康診断の話をしたのは、、、おそらく半月以上前。
私ですら忘れていたのに、しっかり覚えている事に改めて驚いたのだ。
そのしゅうが、、、
今日の祥子との約束を忘れるなんて、、、おかしいよね。


祥子の事は彼も良く知っている。
「痩せたら、俺のタイプ」とさえ言っているのだ。
今日という日付、祥子、一緒にランチ。これだけの情報が彼の頭にインプットされていれば
少なくとも、今までのしゅうなら絶対に忘れない。
むしろ、私が何も言わなくても、
出かける間際に「祥子にヨロシクな」と言うに違いなかった。
しゅうが知りたいのは、私と祥子が会う場所。
確信に近いモノを感じていたから、私の心にわだかまりが残っているのだ。
そのことは、、、しっかりと自覚していた。 と、同時に、
「そんな事ないよ。 気にしすぎ!」と 自分を諭す、もう一人の自分もいる。
関内駅の近くにある駐車場に車を停めた祥子は、
「どうする? ここで待ってる? 
   10分か20分くらいかかるから、お茶でも飲んでる?」
そう言うと、道の反対側にある 「スタバ」を指さした。
「そうしようかな。」
「そうしなよ。その方が私も気が楽だしさ。
              終わったら、あそこに行くから」

そう言うとトートバックを持って小走りで去っていった。
時計を見ると、1時5分前、、、ランチを終えたOLが会社へと早足で戻っていく。
スタバの中でも、サラリーマンの客がカップに残った最後のコーヒーを飲み干している。
午後の仕事が始まるんだ・・・
私は、「カフェラテ」を注文すると、通りに面した椅子に腰掛けた。
横浜かぁ、、久しぶりだな。
横浜にもしゅうの店があった。 
そう言えば、あまり売り上げが良くないから、、、閉店も考えている、って言ってたっけ。
そのお店のオープニングの朝、、、和服を着てこいと言われて、慌てた事を思い出した。
港町横浜、その港のイメージを残したままで「和」のテイストを取り入れた店内。
「俺が『紋付袴』ってワケにはいかないからなぁ、、、ランは着物を着て来いよ」
と言われたのだ。来賓の前で挨拶をするしゅうの横に立って、店内を見回し、、、
どうなんだろう?
そんな違和感を覚えた。 
素人の私が言うのもなんだけど、中途半端? そんな気がしたのだ。
どうせならもっと「和」のイメージをしっかりと出して欲しかったし、それに抵抗があるのなら、
「港街」のイメージで良いのではないか?
港街の若さと。和の老練さのようなモノを融合させようとしたのだろうが、、、
20代の女性と、40代の女性を足して2で割った、30代の女性が魅力的・・・
とは私は思えない。自分自身もすべてに中途半端な世代だったような気がする。
母なのか、妻なのか、女なのか、曖昧な年代。
あの横浜のお店にもそんな「曖昧」さがあったのだ。
閉店の理由もそこにあるんじゃないかしら・・・
通りを行き交う人を見ながらそんな事をぼんやり考えていた。
と、、、私の右手、、、
ちょうど祥子が車を停めた駐車場の前あたりに私の目を惹く車が停車していた。
信号待ちで、5台ほどの車が私の前までつながっている。その最後尾に停まっていた。
同じ車で同じ色だ。
ざわざわ・・・


水面を風が吹き抜けた。
すぐ前に停車している車の陰になって、ナンバーは読めない。
外車だが、右ハンドルなのか運転手の顔も見えない。
しかし、助手席に座っているのが女性とうい事は、かなり離れていても確認が出来た。
ざわざわ、ざわざわ・・・
チクリ 
胸を刺す微かな痛み。
お店の前の信号が青の変わり、車が流れ出した。
心臓の鼓動が早くなる。
前の車が動き出した瞬間、、、
ナンバープレートに刻まれた4つの数字を確認したとき、
水面を渡る風が「突風」になった。
運転席に目をやる。
当然だが、そこにはしゅうが座っていた。 
助手席には、、、もちろん私ではなく
私の知らない、、、見たことのない女性が座っていた。
車は信号を直進して、すぐに私の視界から消えた。
しかし、しっかりと録画された「その場面」は
何度も何度も私の頭の中でリプレイされた。
思考回路がフリーズしていた。
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