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わだかまりを残したまま、
私は祥子との待ち合わせ場所にむかった。
郊外からやってくる彼女が都内に来るときは車を利用する事がほとんどで、
今日も例外ではなかった。
私に家から数分歩いたファミレスがいつもの待ち合わせ場所だった。

都内に住んでいる私にとっては、例えば、銀座や渋谷に行くのであれば迷わずに
電車・地下鉄を使う。 駐車場の心配もいらないし、何より時間通りに着くことが出来る。
荷物が多くなって、電車にのるのが大変な時はタクシーを拾えば良い。
そう祥子に言うと、「だって、、、都内って広いでしょ?移動が大変じゃない。」という。

都内が広い!? 

私からみればむしろ狭いくらいで、夜、渋滞のない時間帯に都内を一周してみれば
その狭さが良くわかるはずだ。

東京なんて、、、小さな街よ。

家の廻りの道も曲がりくねっている上に狭い。 
もし、火事でも起きたら、消防車は入ってこれるのだろうか?と不安に思う。

そんな事を考えながら、いくつか路地を曲がると、今度は片側三車線の広い道路に出た。
待ち合わせのファミレスは目の前、、、でも反対側の車線にあった。
昼間のこの時間帯に、その道路を横切るのは相当の度胸が必要だ。
200mばかりはなれた信号を渡って、ファミレスにたどり着いたとき、
駐車場の中に見覚えのある、祥子の車が停まっていた。

「お店の中、入らないでしょ?」

私を見つけた祥子が、車のウインドゥを下げながら笑顔を見せた。

「そうね、、、 そうしよう」

お店には申し訳ないが、駐車場だけを拝借することにした。

家の近所に買い物に行くのも車を使っているだけあって祥子の運転は上手かった。
女性にありがちなギクシャク感が無い。 バック、切り返し、合流。
私だったら躊躇ってしまいそうな駐車場からの発進も手慣れたモノだった。

「元気そうじゃない? 太った?」

なんでもストレートに話をする祥子とは、会話のリズムが合う。
遠回しな事が嫌いなのか、思ったことをはっきりと口にする。
時として誤解を招くこともあるが、私は彼女との会話が心地良く感じる。

「太ったかも、、、」
「そのくらいが丁度良いわよ。 前のランは細すぎ」

「そう?」
「そうよ!私達くらいのトシになったら、少しくらい脂肪が付いていた方がいいんだってさ」

「医者にも言われたわ。 コレステロールを増やしなさいって」
「増やせって!? 珍しいね。 減らしなさい!って言うのは良く聞くけど…」

それまで、前を見ながら運転していた祥子が一瞬、助手席の私を見て言った。

「確かに、まだアンタは細すぎだわ。 
     ほら、見て、、私なんか下っ腹にこんなにお肉をつけてるんだよ」

そう言うと、スカートの上から下腹をギュッと握って見せた。
なるほど、彼女の指が掴んだお腹のお肉は、
豚バラブロック300gくらいのボリュームがありそうだった。

「あなたの場合は食べ好きでしょ? 
  いいじゃない、美味しいものを好きなだけ食べられるなんて、ある意味幸せよ。」
「まぁね、、、好きなモンを我慢してまで、痩せたいとは思わないな」

午前中という事もあって、混雑で有名な環状線だったが、車の流れは順調だった。

「あ、、、悪いんだけどさぁ。
    今日、銀座じゃなくて別の場所に行きたいんだけど、良いかな?」
「あ、そうなの、、、別に良いけど、どこ?」

お茶が買えなくなってしまった…
私は空っぽの茶ずつを思い出していた。

「横浜」
「ヨコハマ、、、大幅な変更じゃない?」
「ごめん、仕事がらみなのよ。 作品を届けるだけだから、10分で終わる。
                 お昼は私がご馳走するからさ、、、付き合って」

祥子は、ジュエリーのデザイナーだった。
彼女の作品は私もいくつか持っている。 
友達のよしみで買ったワケでは無く、アクセサリーとして気に入ったから買った物だ。
まだ独身の頃、彼女の作品展の手伝いにも良く行った。
最近では、デザインだけではなく、シルバーのアクセサリーを自作している。

「いいよ。 私はどこでも構わないわ。どうせ助手席に座っているだけだし」
「悪いわね、、銀座に用事があったんじゃない?」

「べつにたいした用事じゃないから平気よ。
               お茶屋さんに行こうと思っていただけだから」
「横浜だから、中華でいいでしょ? 美味しい台湾料理屋を見つけたのよ」


話が早くていい。 
祥子の中で、横浜に行くのは私に会う前から決まっていたはずだ。
だったら、彼女のようにはっきりと言ってもらった方がいい。
女特有の探るような言い回しは嫌いだ。


おそらく、この道順で何度も横浜に通っているのだろう。
祥子は道に迷う様子もなく、横浜新道へ入って行った。
そうか、だから横浜新道方面に向かっていたんだ。
246を通り過ぎたあたりで、不思議に思っていた事が一つ解決した。

が、、、今日の行き先を「横浜」と聞いて、なぜか

ざわざわ

と胸が騒いだ。





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