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「僕は、涼子さんの事が好きです。 それは、、、もう随分前から自覚していた。

     彼女の僕に対する気持ちも分かっていたし、それが嬉しくもあった。

   でも、不倫ゲームの中にあって、その気持ちはある意味で御法度ですからね。

       心の奥にしまっておいた」
「不倫ゲームね、、、」
しゅうがぼそりと呟いた。 きっと何か言いたいのだろうが、、、その先の言葉は出てこない。
「健一郎さんがマンションに来たときは、驚いた、というよりも、

   来るべき時、来るべき人が来たな。 という感じでした。
  
       間男と、妻を寝取られた夫。 本来なら壮絶なバトルが展開するんでしょうが、

     2人とも、とても冷静でした。 まるで、世間話しをしているかのようだった。

       だから、『涼子と結婚するつもりですか?』と聞かれたときも

   決して、売り言葉に買い言葉ではなく、素直な気持ちが出たのだと思う。

           『結婚するつもりです』ってね」 
 
 
「その気持ちに今も変わりはないの?」
涼子が今の段階で、ヒロとの事をどう考えているのかは分からない。
しかし、ヒロの気持ち次第では、一気に離婚。 という事も考えられるが、 
もし、ヒロにその気持ちが無いのであれば、 打算的ではあるが、彼女の判断も変わるかもしれない。
心を焦がすような「色恋」だって、現実的な事を考えれば感情論だけではどうにもならない。
「僕の気持ちは変わらないが、、、 
   
        涼子さんと健一郎さんがどんな結論を出すか、、、ご夫婦の結論次第です」
 
  
ヒロは神妙な面持ちでそう答えた。   
  
と、、  
 
「フン!」 
   
しゅうが鼻を鳴らして立ち上がった。
「随分と、勝手な言いぐさだな。 すべてはお相手次第か、、、」
「え!?」
「フン、、、」  
    
今度はしっかりとヒロの目を見ながら、鼻をこれ見よがしに鳴らした。
表情は穏やかだが、視線は鋭かった。    
  
「スケコマシ、、、じゃない、人妻キラーを気取っていたお前らしい言いぐさだよ。

   お前は健一郎さん夫婦の結論を見守るような立場じゃない。

      退院したら、2人のところへ行って土下座をして一連の不祥事を詫びて、

   許してもらわれなくても責任を取って『涼子さんと結婚させてください!』って言うのが筋なんだよ。

      このバカが、、、そんな了見だから 何度も同じ間違いを繰り返すんだ。
   
             もう一度、よく考えろ! 病院のベッドに寝ているんだから時間がタップリあるだろ」
「しゅうさん、、、、」
    
    
しゅうは私の方を見ると   
     
「おい、帰るぞ」   
   
そう言うと、ヒロを見ることもなくエレベーターホールに向かって歩き出した。
車の中のしゅうは、、、
露骨に不機嫌な顔をするだろう、、と私は思っていたが、
意に反して 笑顔さえ浮かべていた。   
     
「まったく、、、懲りないヤツだ。 

   「健一郎さんと涼子さん次第です、、、』なんて、あんな言いぐさがあるか?

      2人が離婚するについては、色んな要因はあるけど、 

   その原因を作ったのは他ならぬ自分自身なんだぜ。

      あれじゃまるで、他人事じゃないか!? 高みの見物を気取ってやがる。

   ふざけた野郎だよ。ったく、、、」   
     
言葉はきつかったが、口調は柔らかで、おそらくしゅうも半分は呆れていたのだと思う。     
     
「でも、あれだけはっきり言ったんだ。少しは考えるだろう」
「そうかしら? 三つ子の魂百まで、、、ってあなたの口癖よ」
「そうりゃそうだ、、、まぁ ここも見守るしか出来ないな。

                            もう放っておこう」
そうね、、、
親友だから、友人だから、、、と言ったところでたいした事など出来ないのだ。
せいぜい、電話口で「愚痴」を聞いてあげる事くらい。
そんなものよ。
結局、、、健一郎さんと涼子、2人はすぐに離婚をしなかった。
かなり具体的な話しをしていて、離婚も秒読みと思われていた矢先に
健一郎さんが入院する事になった。
初期の胃ガンだった。
さすがの涼子もその事実を知って、離婚の話しを一時棚上げにしたのだ。
幸い、発見が早く大事には至る事はなく、その後健一郎さんは元気に仕事に復帰した。
 
ただ、闘病中、二人の周囲から「離婚話」は姿を消していた。
病気が2人の中を修復したとは思えないが、あれから1年以上たった今も
離婚の話しは棚上げになったままだ。
廻りがいくら説得しても、「離婚」しか眼中になかった涼子と
  
その気持ちを尊重しようとしていた健一郎さん。
  
私達も含め、周囲は「離婚やむなし」という雰囲気になっていた。
それなのに、「ガン」という最悪の病が2人を再度、くっつけようとした。
  
それが良いことなのか悪いことなのか、今はまだ分からない。
或いは、この先ずっと分からないのかも知れない。
人生なんてそんなものなのかもね・・・ 
 
 
もっとも、家での2人は完全に家庭内別居状態が続いていて修復の兆しはないという。
涼子とはときおり連絡を取り合っていて、ランチに誘われたりもするが、
話しの内容は当たり障りのないことばかりで、夫婦のことについてはほとんど触れることも無い。
傷跡を探るような事は私もしたくはない。
ただ、、、やはり子供「ハルカちゃん」の事は気になる。
彼女にはなんの落ち度も無いのだ。 
むしろ、夫婦仲を取り持とうと健気に明るく振る舞っているように私には見える。
ときおり見せる彼女の屈託のない笑顔がかえって痛々しく感じてしまうのだ。
第三者的な、無責任な意見かも知れないが、ハルカちゃんの為にももう一度やり直して欲しいとは思う。
    
ヒロは、竹内さんの必死の説得も聞き入れずに、会社を辞めた。
女性がらみの不始末は2度目なのだ。 辞表を出すのは当然の事だろう。
退院後に涼子の家と、彼女の実家では、大きな体を小さくして「土下座」をしたらしい。
さすがに「涼子さんを下さい」とは言えなかったようだが、、、
健一郎さん・涼子・ヒロ、、、 3人だけて解決できる話しでは無くなっていた。
単なる「浮気」の話し合いであれば、大人同士、3人で解決できたのかも知れないが、
おおやけになってしまっては、さすがにそうはいかない。
ヒロと涼子が結婚する。
そんな理不尽な事がそう簡単に実現するわけはない。
若さだけで 『結婚』というゴールにたどり着ける20代とは訳が違うのだ。
しがらみ、、、 結局、不倫の恋に燃えていた2人も、、、しがらみによって離れていく事になる。
    
    
半年ほどたち、ヒロが東京を離れる日。
私と涼子は東京駅まで彼を見送った。
吹っ切れたのか涼子の顔には 「寂しさ」も無ければ「未練」も感じられなかった。
寂しさという意味では、むしろ、、、私のほうがあったかも知れない。
駅には、、、竹内さんも来ていた。
病院で見た時とまったく同じような服装で、、、疲れた靴を相変わらず履いていた。  
  
「ホームへは来なくて良いから。」   
 
と言うヒロの言葉に従って、私達は新幹線の改札で彼を見送った。
いつものような、素敵な笑顔を見せて彼は人混みに消えた。
踵を返す私達を尻目に、竹内さんは、見えなくなったヒロのほうをずっと見ていた。
彼は今回の火事の裏側でおこった 本当の「愛憎劇」を知らない。
でも、知らないほうがいい。
知らないからこそ、東京を後にするヒロに未練を持っているのだ。
私達を同じように心を痛めたに違いない竹内さんだが、、、事実を知らない彼が一番純粋に
今日、、、ヒロに手を振っていたのだ。
「どうする? どこかでお茶でも飲む?」
涼子は元気になった。 一時期の「鬱状態」からは抜け出したようだった。
「いいよ。 今日は、、、仕事も無いし」
「話したいことがあるんだ」
「何よ、、、もう トラブルはごめんよ!」   
    
涼子は笑っている。
喫茶店が少なくなった今、落ち着いて話せる場所はなかなか見つからない。
結局、デパートの中にある
某有名パティシエの お店に入った。
ケーキセット¥1.200-也 
高いわね・・・
「で、話しって何?」
「うん、、、驚かないでね」
「もう、たいがいのことじゃ、、、驚かないわよ」
 
「新しい 『彼』が出来たのよ」   
    
 
涼子の顔は輝いていた。
驚くはずもない。 おおかたそんな事だとは見当がついていた。
もう20年以上、彼女の友達をやっているのだ。   
     
「へ~~~っ  今度はどんな人?」
バカは死ななきゃ治らない、、、のか 三つ子の魂百まで、、、なのか、、、
私は大袈裟に驚いて、高いケーキを口に入れた。
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