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・・・・・・・・・・・・・・・・・ 発見  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  「夫の意見」
  
 
 
 
しゅうは、交通量の増えた中央高速を都心に向けて走っていた。
元来、気が短くてスピードを出すほうだが、このときは左側車線を慎重に運転する。
原因はどうあれ、涼子さんは家事に巻き込まれたのは昨日の事で、
その夫である健一郎さんが助手席に座っている。
だいたい、悪いことは重なるもので、、、当事者の誰かの運気が落ちている事が多い。
このダンナのバイオリズムが悪いのかもしれないなぁ、、、だとしたら気をつけなくちゃな。
そんな事を考えながらハンドルを握っていた。
「嫉妬心が爆発ですか、、、」
しゅうは前の車のブレーキランプを注視しながら、独り言のように呟いた。
「そうです。 自分でも理解できない感情、、、
   胸が締め付けられるような、、、苦しいような、、、
     嫉妬というものがそう言うものであることは私だって分かっていましたよ。
  でも、今さら涼子に対してそんな感情が沸き上がってくるとは思いもよらなかった。
    むしろ、男がいることくらい想像が出来たし、、、いや居るモンだと思っていたんですから」
しゅうは助手席に座って、流れる景色を見ている健一郎さんにチラリと目をやった。 
 
  
優しそうな、、、温和しそうな、、、聡明そうな、、、
社会人として或いは夫として、申し分の無い男性に見える。
おそらくは、学生時代も真面目に、何事もそつなくこなしてきたに違いない。
バイトに明け暮れ、夜な夜な六本木界隈を闊歩し、、、
   
普通の人よりも2年も多く大学に通った自分とは大違いだ。 
   
しかし、そんな彼も、、、多くの男性がそうであるように、
心の奥底に人知れず、コンプレックスを抱えていたわけだ、、、
良く、、、女は単純だ!というけれど、それは違う。 男のほうが複雑なだけなのだ。
人間は元来、、、女性のように単純で明快な思考回路をもっていたはずで、むしろそっちのほうが正しい。
なのに、どこでどう配線が狂ったのか、近来、男性の思考が複雑化してしまった。
彼も、その複雑化した思考回路によって、
本当の自分を見失ってしまった犠牲者の一人だ。
「涼子さんに対する、見方が変わったでしょう?」
「え!?」
しゅうの突然の問いかけに、健一郎さんは驚いたような声を出した。
「そうなんです。その通りですよ。
 
     それまでは鬱陶しくも感じた彼女の存在がその日を境に一変したんです。
    不思議だった、、、 自分でも理解できない感情だった」
当時の気持ちを思い返すかのように、再び窓の外に視線を移した健一郎さんを見ながらしゅうは
とある確信のようなものを感じていた。
 
  
この男は、、、結局、今日、今この瞬間も、涼子さんの事を愛しているのだ。
彼の話を聞く限り、 
   
結婚~妊娠~流産~確執~妊娠~出産~不仲~不倫、、、  
  

2人の十数年の結婚生活の中で、少なくとも3回は離婚の危機があって、曰くその意思もあった。
しかし、結果として今なお婚姻状態は続いている。
子供のため、、と口では言っているがそれは詭弁だろう。
本当は別れたくないのだ。 
 
 
交際中、廻りの連中は2人の事を「美女と野獣」と揶揄していたらしい。
確かに、、、どこか野暮ったい健一郎さんと、顔立ちからして派手な涼子さんを称して
「お似合いのカップル」というのは、結婚式の仲人くらいなものだろう。
彼の一途な思いと、長年にわたるアプローチによって2人は結ばれたと聞いている。
つまり、彼の涼子さんに対する思いの深さは相当なものだったはずだ。
数多くいたであろうライバルを押し退けて、彼女を射止めた健一郎さん。
結婚式ではどんなにか幸せだったに違いない。 
 
 
しかし、その日を境に人知れず彼は自身のコンプレックスと戦う事になる。
厄介なのは、そのコンプレックス自体を本人が自覚していないケースが多々あるという事だ。
彼の場合も、涼子さんの口から「不倫」の事実を告げられてはじめて、、、
嫉妬心と共に自分のコンプレックスとご対面する事になったのだ。
だから、、、自分でも理解できない感情、、、、そう思えたのだ。
「僕は、、、彼女にとって本当に相応しい男なのだろうか?」 
   
男の多くが感じる不安。
健一郎さんも、そうした不安を心の奥では感じていたに違いない。
涼子さんのまわりに数多くいた男性達、、、或いは、彼女が過去に付き合ってきた男性達。 
    
   
そうした連中と比べて、精神的なものか、肉体的なものか、、、
    
何か自分に足りないものがあるのではないか? 
 
    
  
彼女の事を愛すれば愛するほど、その思いは強くなる。
  
不安はやがてコンプレックスとなり、、、弱点へと変わっていく。
男は自分の弱点を隠そうと、或いは補おうと、虚勢を張ることになり、妻に自分の力を誇示しようと
時に大声で威嚇し、時に腕力に訴えるようになるのだ。 
やがては、妻を愛している事さえもつまらない「男のプライド」によって覆い隠してしまう。
残るのは、妻への不満、、、夫への不信、、、 結婚生活の崩壊。
「夜中にふと目が覚めると、涼子の事が気になって仕方がない。
    もしかしたら、家を抜け出して男の所へ行っているのではないか?
       ゴソゴソと起き出して、彼女の部屋の様子を窺ったりしている。
   ドアの隙間から彼女の姿を見つけて安心して、布団に戻って寝ようとするが、、、
  頭の中には、彼女が私の知らない男とセックスをしている場面が、
まるでアダルトビデオのように浮かんできてしまう。 胸が締め付けられるような嫉妬心、不安感、、、
   想像の中の涼子は、喘ぎ声をあげ、、、貪るように男性の上で腰を振っている。
私には見せたこともない痴態に、さらに胸が痛む。
  なのに、、、なのにですよ! 僕のペニスは固く勃起しているんですよ! 
     そんなシーンを想像しながらも、欲情していて、、、あり得ないくらいに勃起しているんですよ。
   ハハハ、、、ヘンな話しでしょう? それまでは、セックスの途中で萎えてしまったりしていたのにね」 
    
  
最後は自嘲気味に笑いながら告白話しをする健一郎さん。   
   
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しゅうは黙ったままハンドルを握り、、、前方の車を注視していた。 
   
  
ヘンな話しじゃありませんよ。 
    
しゅうはそう思っていた。 
   
勃起したペニスこそ、、、涼子さんを愛しているという証拠なんだ。
本当はまだ別れたくない。彼女への思いは昔のそれと変わっていないという証拠なんだ。
今まで、あなたが対立、反発していたのは、涼子さんではなく、
あなた自身が持っていた、コンプレックスと、歪んだプライドだった。
「愛人がいる、、、そう告白された後で、
     
    いたたまれなくなって、、、涼子のベッドに潜り込んだことさえあります。
        むずがる彼女を裸にすると、その肌の上を蠢いたであろう、男の手や
     涼子が愛おしげに口に含くみやがてはヴァギナに挿入された相手のペニスが脳裏に浮かんで、、、
  涼子が思わず『苦しい、、』と呻くくらいに強く抱きしめていた。
     私の興奮は極限に達していて挿入前にスキンを付けようとしたときに、、、射精してしまった。
   俺はおかしいんじゃないか?
     そう思いました。 離婚やむなしと思っていたのに、、、涼子が浮気をしている事が分かった途端に
      彼女を手放すのが嫌になった。 ふくれあがる嫉妬心は、彼女への思いの強さの裏返しなのか!?
   自分でも良くわからなかった。」 
   
普通の人が聞いたら、「なんとも間抜けな話しだ、、」そう思うに違いないだろうなぁ。
もっとも、俺だって、自分の女房を他の男に抱かせて喜んでいるんだから、健一郎さんよりも間抜けだな。
   
  
しゅうはそんな事を考えていた。
右手にビール工場が見えてきた。
ユーミンの歌、「中央フリーウェイ」とは反対のシチュエーションだ。
あの歌の恋人達は・・・ 
    
夕方に都心から郊外へ向けてドライブデートに向かっている事を左に見える競馬場が教えてくれる。
「その気持ちがあったから、今まで『離婚』することなく夫婦関係が続いていたんですか?」
「う~ん、、、そう言う事なんでしょうね。 でも、実態は仮面夫婦のようなものでした。
    会話も必要最低限しかしなくなっていたし、もちろん、、、セックスもここ数年はありません。
        涼子には新しいボーイフレンドが出来たし、少なくとも、僕の所に戻ってくる可能性は無い、、、
   そう実感していましたからね。 いずれ離婚する事になるだろう、とは思っていました。
     しかし、男っていざとなったら弱いモンですね。
       最近は、自分の老後の事を考えるようになって、、、涼子と完全に別れてしまって、、、
   自分一人になって、もし病気でもしたらどうなるんだろうか?って、、、
  
    いや、病気にならなくても、今一人になったら、飯の支度やら、洗濯やら、、、どうすればいいんだろう?
  再婚なんて出来るのかなぁ、、、そんな事を考えるようになりましたよ。」 
 
 

熟年離婚、、、女性よりも男性のほうにダメージが大きい事は火を見るよりも明らかだ。
男なんて所詮、、、弱い生き物なんだ。
これからの「雄」は一人で何でも出来るようにしておかくては駄目だ。
経済力だけでなく、生活力も身につけなくては、生き残れない。
それでも、女性より弱いことに変わりない。 
なぜなら女性の精神構造のほうが現代社会をサバイバルするのには適しているからだ。 
   
「しゅうさん、、、実は、僕、、、
     宇佐見さんの事、知っていたんですよ。」
「知っていた!?」
しゅうは進行方向に向けていた視線を健一郎さんに向けて、、、驚いたような声を出した。
「知っていました。 それどころか、、、彼と合って話しもしているんだ」
「話しをした!? それって、、、涼子さんの夫として会ったんですか?」
「もちろんそうです。
      もう半年くらい前ですが、、、彼のマンションを訪ねて、
               僕らが別れたら君は涼子と再婚する気はあるのか?
 
                                       そう聞いたんです。」
「本当ですか、、、、、」
う~ん、、、、 
   
しゅうは思ってもいない言葉を聞いたかのように、、、うなり声を上げて顔を曇らせた。
が、、、健一郎さんの告白した内容はしゅうが想定した内容だった。
だから、正確には驚いたふりをしていた事になる。
予想外の事と言えば、
涼子と再婚する気はあるのか?とヒロに問いつめたことだった。
彼がなんと答えたか、知りたいと思った。
既婚女性にしか反応しない、、、欲情しないヒロが、 
      
独身となった涼子さんに魅力を感じるものなのか、、、知りたかった。  
  
  
「宇佐見さんは比較的冷静でしたね。 
  
   慌てふためくどころか、、、むしろ私が来ることを予想していたかのようでした。
                      僕的には、あの冷静な対応が腹立たしかったですがね。」
「彼はなんて答えました?」
「涼子さんと別れるおつもりですか?と逆に質問されました。
    なんだか、『別れられないんだろ』そう見透かされているようでね。
  言葉に詰まってしまった。 でも、、、『君と涼子が本気なら、、、別れる』そう言いました。
                                             すると、、、、、、彼は、、、」
健一郎さんの言葉が止まった。
そろそろ、高速を降りなくてはならない。
病院まであと僅かだ。 
   
「すると、、、!?」
じれたしゅうが先を促した。  
    
「彼は、、、『涼子さんがOKしてくれるのなら、結婚します。』 そうはっきり言いました」
「!」 
   
この答えにしゅうは驚いた。
本心か!? 
 

「僕は、、、妻を寝取られたんだ。
   彼の言葉を聞いて、、、離婚しよう、、、そう思いました。
          結婚してから数年で離婚を考えた妻だったのに、、、
 修復不能になってはじめて彼女の存在の大きさに気がついた。
        僕のつまらないプライドが、彼女に対して素直になることを拒んでいたんだ。
                      バカですよ。そんな事にその時まで気づかなかったなんてね。」 
  

高速を降りると、道はいつものように混雑していた。
車の中にしばらく静寂の時が流れる。
やがて、病院が見えてきた。
しゅうは駐車場に車を入れながら、    
  
「涼子さんと離婚するつもりですか?」
そう聞いた。
「そうですね。涼子が退院して落ち着いたら、、、離婚についての話し合いをするつもりです」 
 

すべてを告白した彼の気持ちが変わることはないだろう。  
   
俺たちに出来ることは、、、無いな。
   
 
 
しゅうはそう思った。 
 
   
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